08 私の幸せ。
彼の家族に会った時。
私はひとつだけ疑問が残った。
ご両親の写真を何度見た。
彼の弟さん、あと妹さん。
そして彼自身を何度も見ても。
彼は家族誰にも似ていない。
目元は彼のお母さんそっくりでも。
他は私から見てもあまり似ていない。
「昔からよく言われてたんすよ。俺と親父は何故か知らないけどなんか似てないって。真司と未央奈は似てるのに」
彼は笑いながらそう言ってたけど。
じゃあ、なんで似てないんだろう。
彼のご両親は理想の夫婦。
私の家族とは大違い。
私のパパは私を置いて逃げた。
育ててくれた叔母も連絡が取れない。
ママが亡くなった幼い頃。
パパは悲しみを埋めるかのように今まで以上に仕事に邁進していた。
仕事のデスクの隅にはママの写真。
亡くなって悲しかったのは私よりもパパだったのかなぁって今は思う。
「親父は前の会社で揉めて、その後に愛知の知り合いだった人がやってる会社に再就職して。そんで俺たちは住み慣れた九州から愛知にやってきたんすよ」
「辞めて平気だったの?」
「母さんのあの姿は今でも忘れたことはないっすよ。あれはやべーです」
「どんな風に?」
「親父の胸ぐら掴んで、ぐわんぐわん親父の頭振り回して。しかも、真司が母さんのお腹の中にいたからそれはそれはもう大変でした。俺も学校を転校することにもなったし」
「でも、楽しかったですよ。新しい場所での生活でいろんな人と出会って。もちろん、2人が事故で亡くなって借金とかいろいろ辛かったですけど2軒隣のダメおじさんがカッコいいこと言って励ましてくれたり。いろんな人に助けられたから、いまの俺が存在しているんです」
彼は笑顔で答える。
突然、ご両親がいなくなって。
借金まで返して。
誰に頼まれたわけでもないのに。
ちゃんと向き合う彼はすごい。
「あなたは太陽みたいな人ね」
「え?」
「いつも前を向いて、みんなを明るく照らして誰かの笑顔のために動けるから」
「大げさですよ」
「私はあなたみたいになりたい」
「俺よりもすごい人は沢山いますから。いまの俺がいるのはみんなのおかげです」
部屋から見える満月。
夏が過ぎ去り、やってきた秋の涼しさと重なってどこか少し寂しそうに見える。
「月見てたら腹減りましたね。よし、コンビニで大福でも買ってきましょうか」
「いや、それはおかしい」
2人で一緒に笑い合う。
少し古いアパート暮らしでも。
お金がなかったとしても。
「変な人」
私だけが感じるこの幸せ。
それはあなたと一緒にいること。
変わったあなたが私は好きだから。