03 ふたりきりで。
いつもはしない化粧をして、会うためだけに買ったパステルカラーのワンピースを着て10分以上前から待ち合わせ場所にいる。
「あなたが好きです」ってそれだけ。
それだけ言えば終わるゲーム。
帰省して2日後。
ふたりで飲みに行くことになった。
別に飲みに行くのは嫌いじゃない。
あたしもあの人もお酒は飲めないけど。
沢山は飲めないけど飲むのは好き。
「飲みたいときは飲むんだよ」
なーんて言ってた。
高校の時と何にも変わってない。
「飛鳥」
久しぶりに聞いた声。
それだけで胸が高鳴るのが分かる。
「久しぶり」
「あの、その…お久しぶり、です」
夏になると好きな人に会いたくなる。
それはあたしも同じ。
あたしが好きな人は、ドラマや小説に出てくるようなタイプのひとじゃない。
本が好きで、誰かの笑顔のために生きてて、誰よりも優しくて強いひと。
「ふたりで飲みなんて久々だよな」
「なかなか忙しいですもんね」
「だから、今日は一杯飲もうぜ」
「もちろんです」
ああ、どうしてなんだろう。
こんなに近くにいるのに。
なんで「好き」が言えないんだろう。
勇気さえ持てば出来るはずなのに。
あたしにはできない。
「らっしゃーせー」
「電話で予約してた堀です」
店に着いて中に通される。
個室のある居酒屋さんだった。
「あー、あっつ。クーラー最高」
席に座るとメニューを見始める。
あたしもドリンクが記載されてるメニューを見てみる。
カクテルしか飲めないから、飲めるものは相当限られてくるけれど。
「安定のそれかよ」
「これが一番美味しいんです」
「ま、いいけど。乾杯すっか」
グラス同士を合わせて乾杯をする。
ふたりで飲むのは一年振りくらい。
カラフルな色をしたお酒があたしの喉に流れてグラスから減っていく。
「幸平さん、飲むの早すぎです」
「あれ、俺のこと名前で呼んでたっけ?苗字で呼んでた記憶しかないけど」
「べ、別にいいじゃないですか!あたしのこと名前で呼んでるからあたしだって名前で呼んだっていいじゃないですか」
「分かったよ。ごめんごめん」
これで本人公認になった。
これからはこの呼び方でいいや。
いま以上にもっと近づきたい。