01 新たな来客。
夏休みが終わって9月。
夏の暑さは相変わらず。だけど、俺とお嬢様は相変わらずの生活をしてる。
なんだかんだでもうすぐ1ヶ月。
なにかプレゼントしようかな。
どんなのが喜ぶんだろう。
そんなことを考えながら店に出勤。
「っはよーございま…」
更衣室に誰もいない。厨房の電気ももうついてるはずのに、まだ照明はついてない。
なんだかホールがざわざわしてる。
そのままホールへ向かう。
「はよーございます」
「おおおおい!幸平、お前見た?」
渉さんが俺を揺さぶる。
まだ夏休みボケ抜けてないから。
アタマヲユラスノヤメテ。
「はい?いきなり何すか?」
「これ見ろ、これ!」
「え。あの、もしかしてこれ…」
目の前には小さなモノが。
なにこのドラマみたいな光景。
そしてその中にはもちろんアイツ。
「ええ…ウソですやん」
生まれて半年ぐらいの赤ん坊。
まだ9時過ぎのお店になんで。
「どしたんすか、この子」
「俺が1番初めに来たら店の入り口の前にこの子が置かれててさ。あとは手紙くらい」
「手紙?」
手紙を開くと達筆にひと文だけ。
『私はもう疲れました。健一のことはあなたが責任持って育ててください』
これだけが書かれてた手紙。
だからってなんでうちの店に。
「どうするんすか、この子」
「俺に言うなよ。第一、こんな小さい子供なんで面倒見ないと大変なことになるわ」
「おいおいおい、なんだよ、今日は秋のオープン初日だぞ。どうなってるんだ」
オーナーと新田さんも出勤。
とりあえず話し合いするしかない。
ランチ時間は臨時休業にして、開店時間を夕方の時間からにして、いま店にいる従業員、オーナー、新田さんで緊急の会議が始まった。
「渉、これは何がどうなってる?」
「自分にもさっぱりですよ。しかし、こんな手紙がある以上この店の誰かが父親って可能性もなくもないけどやっぱりないと思います」
「みんな、目を瞑れ」
みんな閉じるから俺も慌てて閉じる。
なにこれ。花瓶割ったのに犯人出てこないで目を閉じて挙手させるシチュエーション。
「この中でこいつの隠し子だろうなと思うやつに一斉で指差せ」
「せーの!」
目を開ける。
やっぱりというか何というか。
目の裏で一瞬だけビジョンが見えた。
みんな俺を指していた。
「なんでっすか!?」
「付き合って同棲までしてんだからお前はほぼ黒確定なんだよ!」
「もう決まりだな」
「お嬢様もいるのにどうするんすか!絶対帰ったら大喧嘩になりますって。嫌ですよ」
「名前は健一か。いまどきの子供にしてはいい名前付けてもらってんな」
「健一なんてカッコいい名前ですよね。どっかの誰かさんと違って」
おい、どっかの誰かさんって何だよ。
俺の扱いがいつの間にどっかの誰かさんになっちまったんだよ、あん?
「…とりあえずお嬢様に話さないと」
メールを送ってみる。
『すぐ店に来てもらえます?』
『はーい。すぐ行く』
最近お嬢様はバイトしている。
この近くのカフェの店員さんだとか。
今日はお昼からバイトと聞いてた。
働いたことないみたいだけど、それなりに仕事はこなせてるらしいから大丈夫だという。
いやでも、ちょっと待って。
店で結婚してるのはオーナーと新田さんとあと先輩が2、3人。みんな基本的に共通して奥さんが怖いからそんなことしたら多分殺される。
だからそんなことするのはあり得ない。
こんなの見たらなんて言うんだろ。
勘違いして俺を浮気者だと言っていろんなものを投げつけてくるんだろうか。
そもそもお嬢様と喧嘩したことない。
喧嘩したらどんな風になんのかな。
「なに、わざわざ呼び出して」
「いや、あの…その」
「この子、どうしたの?」
俺の後ろにいる赤子に気づくとゆっくりと抱き上げる。その瞬間に赤ん坊もニコリと笑う。
「朝、店の前に置かれてて。どうしようかってみんなで緊急の会議をしてたんです。そしたら素敵な彼女がいる幸平でいいんじゃないかなーってみんなの意見がまとまって」
なーにが意見がまとまって、だ。
多数決で決めてたくせに、まったく。
「あら、そうだったんですか。あなたは何がダメな理由でもあるの?」
「え?いや、特には」
「しばらく私たちが面倒見ますよ。大丈夫ですよ。あ、オムツとかミルクとかは補助してくださいね」
店中に歓喜の声が溢れる。
結局はこうなるオチなんかい。
俺、子供苦手なんだってば。
今さら言うに言えない。
あーあ、夏休み明け早々これかい。
頭の中に不安という言葉しかない。