曲がり角を曲がれば。







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第4章
17 あの時の記憶。
電車から見える景色。
前に見慣れた景色が目に映る。


夏だけどまだやりたいこと沢山。
花火だってしたいし、好きな人と恋に落ちてドキドキだってしたい。


セミの鳴き声が聞こえる。
暑そうにして歩いてる人たち。


まだあたしの夏は終わってない。
まだドキドキしていない。
夏の恋がどんなのか分からない。
幸平さんの思いが募るばかり。


高校の時、友達に変わり者の先輩がいるって聞いたから興味本位で友達とこっそり見に行った。
机の上には大量の分厚い本が積まれててすごいスピードで読んでいる人が1人。
友達は笑ってたけど、あたしはドがつくほどにストライクだった。


勇気を持って話しかけてみた。
話してみるとなんだかまっすぐで、見た目よりもずっと優しかった。
時々見せる笑顔が忘れられなかった。


読んでた本を読んでみた。
元々から本が嫌いで読むことさえしてなかったから友達は変に疑ってた。
本読むのが少しだけ好きになった、なんて嘘ついて川端康成や志賀直哉。いろんな作家の本を読んだ。難しくて分からなかった。


「え、それ読んでんの?」


本を見せると嬉しそうになった。
無邪気なその笑顔が見たくて図書室で沢山の本を借りた。
何も言わないでおすすめの本をいくつか紹介してくれた。でも読めてない。


数ヶ月でぐっと縮まった距離。
すごく照れくさそうに夢を語ってくれた日もあった。


「将来は書く仕事がしたいな。でも、弟と妹のこともあるし無理かもな」


「無理なんかじゃないですよ」


「高校卒業したら働かなゃいけないんだ。好きなことをしたいけどきっぱりと諦めなきゃいけないかもしれない。だから、今必死に少しでも未練がないようにしてんだよ」


ちょっとだけ悲しそうな表情。
本のことがほんとに好きなんだってすごく感じた瞬間だった。
大学に進むなら同じ大学に行きたい。
いつかは「好き」って言いたい。
淡い恋心が日に日に芽生えていく。


でも駄目だった。
どうしても勇気が持てなかった。
卒業してからは疎遠になった。
電話番号もアドレスも全部変えてて、どこに就職したのかも分からない。


儚く散った初恋。
気持ちを伝えてさえいれば少しは変わってたかもしれないのに。
いろんな先輩に聞いたけれど、みんな分からないみたいだった。
結局は諦めて大学に進学した。
東京で新しいことを見つけようとしたけど、毎日が退屈だった。


クリスマスも近い冬の日。
少し前に始めたアルバイト。閉店準備で入口に置いてあるメニュー表を片付けるために店の外に出た。
外は寒いだけで、誰もいない。
もう夜の11時だし。
男性が一人歩いてるだけ。


ふとした瞬間に目が合った。
そのまま過ぎ去ろうとした時に、頭の中に即座に蘇る後ろ姿と顔が一致した。
自分の中でもう諦めていたあの人。


「あ、あの!」


ゆっくり振り向いたその人は、口元を黒のマフラーで隠して左手でその口元のマフラーを解いた。その仕草でもう間違いなかった。


「堀先輩…ですよね?」


言葉が見つからない。
なんていえばいいんだろう。


「あの。あたし、愛知西高校の齋藤飛鳥です。覚えてませんか」


何年ぶりなんだろう。
3年ぶりくらいかな。
でも、変わってなくて安心した。


「高校卒業して大学に進学して。あたしここで働いてるんです。良かったら、今度時間ある時に食べに来てください」

何も言わないで去っていった。
ちょっと冷たくなったのかな?


何日間かその時間帯に外に出てみるけど、現れることはなかった。
やっぱりだめだったのかな、東京でなにしてるんだろうとか勝手に想像した。


1週間後。
バイトもそろそろ上がろうとした時に、一人の来客。見覚えのあるマフラー。


「…えっと、久しぶり。この前はちょっとびっくりして言葉が出てこなくて。なんも言わなくてごめん」


不器用なその笑顔。
昔の気持ちが蘇ってきた。
やっぱり、好きなんだって。


連絡先を交換した。
そこから、時間がある時にいろんな場所に2人で行った。
付き合ってる人がいる、なんて言われた時はショックだった。でも、何ヶ月かで別れてお店で長い相談をされたり。
結局、お互いが依存してたのかな。


あたしはやっぱりあなたが好き。
この、「大好き」って気持ちをあなたに簡単に伝えられたらいいのに。


■筆者メッセージ
1ヶ月、更新をせずに申し訳ありませんでした。もう気づいたら12月なんですね。

いつも追われてて、なかなか更新も執筆も進まず。なんとか書いてますがなかなかまだ忙しい状況です。

カタツムリペースの駄作を待っていただける読者の皆さんにはご迷惑をおかけします。

これからも応援よろしくお願い致します。

感想お待ちしております。
ガブリュー ( 2016/12/05(月) 22:58 )