11 あの日から。
あれから数日。
店に来いってあれほど言ってたのに、ずっと店は閉まったまんま。
そういえば連絡もしてないな。
「そんなに好きなら会いに行けば?」
大学の先輩に言われてお店の前に。
でも、誰もいない。
中を覗いてもがらんとしてる。
お店の前には一つの看板。
『しばらく休業します』
潰れちゃったのかな?
そんな急には潰れないはず。
どこに行ったんだろう。
「いけねいけね、忘れ物」
店に近づいてくる一人の男性。
この店の従業員さんかな。
思い切って聞いてみよう。
「あ、あの。すみません」
「ん?わがままですいませんが、店なら9月までは開きませんよ」
「そうじゃなくて。あの、ここに堀幸平さんって方がいますよね?」
「あぁ。俺の後輩ですけど」
「今どこにいるか分かりますか?」
「たしか実家のある愛知に帰るとか言ってたような。家族に久々に会いに行ったと思いますよ」
愛知に帰省。
今年は帰らないって決めたけど。
幸平さんが帰ってるなら、少しでいいから会いたい。どこかに連れてってもらいたい。
「ありがとうございます」
「あの、幸平に何か用だったら俺から伝えときますけど」
「大丈夫です。ありがとうございます」
頭を下げて店を去る。
帰省って分かっただけでも大収穫。
こっそり会いに行こうか。
でも、バイトも休めないし。
夏休みはほとんどバイトが入ってる。
「休みにしてれば良かった」
これじゃあ到底無理。
どうしたらいいんだろう。
せめて、1週間だけでも。
なんとか休みにならないかな。
店長に電話をかけてみた。
「なに、どうしたの。飛鳥ちゃん?」
「あの、今月のシフトの件なんですけど。明日から土曜日まで入れてたシフトが急遽入れなくなっちゃって」
「あららー。そっかそっか。じゃあ空いてる田中君と山下君に代わりに入ってもらうから心配しなくても大丈夫だから」
バイト先の店長がいい人過ぎる。
でもたまに天然が目立つけど。
「本当にすみません」
「しょうがないしょうがない。だって、学生のうちに楽しまなきゃもったいないでしょ。自分の気持ちに嘘ついちゃ駄目よ」
「はい、ありがとうございます」
電話を切った。
今から帰省の準備。
それから、新幹線のチケットと家族になにかお土産も買わなきゃ。
東京ばな奈でいいよね。
「待っててよ…幸平さん」
すぐにでも、あなたに会いたい。