07 帰省。
結局、小百合の誘いは断って俺は愛知に帰省することにした。
正月に帰ってきて以来。
しかも、今回は隣にはお嬢様。
婆ちゃんが腰を抜かすかも。
未央奈はなんて反応するかな。
未央奈には手紙を送っておいた。
やっぱり返事は来なかった。
絶対に俺に対する嫌がらせだろ。
「あーー、着いた!」
新幹線で愛知まで一直線。
とりあえず駅前の小さなカフェへ。
「久々の愛知。懐かしい」
「これからどうするの?」
「ちょっと名古屋とか観光します?ちょっとだけだったら俺も案内できますけど」
「そうね。そうしようかな・・・って私の話聞いてるの?」
「あ、いや。あの、ちょっと妹に似てる人がいたんで。すいません」
「他人の空似でしょ」
「いやちょっと待ってください」
お嬢様は俺の見ている方向へとゆっくりと身を振り向いた。
艶のある黒髪に少し小さめな背丈。
誰かを待っているようだ。
「・・・間違いないっす。妹です」
なんでいるんだよ。
就活じゃないんかーい!
思いっきりオシャレしてんだけど。
「ごめん、待った?」
息を切らして男が1人来た。
少し気弱そうな感じがする。
「待ち合わせ何時だっけ?」
「11時」
「30秒遅刻」
あれ、時間に厳しい。
俺よりも時間にルーズだったよな。
男の耳をつかんで口元に持っていく。
「好き?」
「はい、大好きです」
「よし、許す」
安心して男が座ろうとした時。
また目つきが変わる。
「遅刻したのに座るんだ?」
「せめて座らせてよ」
「仕方ないな。座って」
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「あ、えっとアイスカ・・・」
思い切りテーブルを叩く。
また目つきが怖い。
なにあの目つき。超怖ぇ。
「勝手に頼むんだ!」
「た、頼んでいいよ」
「甘いものとか好き?」
「あんまり好きじゃない」
「じゃあー、チョコレートパフェ」
「いま、甘いものは苦手だとお客様がおっしゃいましたが」
「パフェ、お願いします」
「チョコパフェ入ります!」
えぇ、なんだこれ。
怖いよ、超怖ぇよ。
「あなたの妹さんって、あなたと違ってすごいアレなのね」
「アレってなんすか」
「知ってるでしょ?笑顔でサラッと怖いこという人のこと。猟奇的だって」
「あぁ。なるほどっすね」
映画で見たような記憶がある。
猟奇的な彼女。
正体不明な可愛い彼女に人が良さそうな青年が少しずつ惹かれていく。
ちょっと理想だったような映画。
でも、満面の笑顔で「ぶっ殺されたい?」とは聞かれたくはないよね。
「じゃあ、俺達はもう行きますか」
なんか未央奈の意外すぎる一面を知って、兄としてショックなのはもちろん、数時間後に家に帰った時に目を合わせたくない。
「気づかれないように、さっさと行って今のは見なかったことにしましょう」
足早に店を出た。
夏の暑さがムワっと来る。
「んじゃ、行きますか」
付き合って変わった事は一つだけ。
手をつなぐ時はお嬢様から。
「はやく。案内して」
「はいはい。分かりましたよ」