04 帰り道で。
「いやー、綺麗でしたね」
あっという間に花火は終わった。
色鮮やかな花火は夜の空に咲いてあっという間に消えていった。
もう少しだけ続いて欲しかった。
花火と彼の笑顔を見ていたかった。
「明日からまた仕事かぁ。もう少しの夏休みのために辛抱辛抱。頑張ろっと」
大きく背伸びした彼。
忙しくてかなり大変らしい。
帰りの電車の中で話してくれた。
「いつぐらいになりそうなの?」
「そうっすね・・・あと1週間ぐらいで多分そろそろ休みになるんじゃないすかね。毎年オーナーの気まぐれですけど。店も9月までは絶対開けないと思いますし」
「ま、どうなったとしても俺は真っ先に愛知に帰省しますけどね」
彼の育った町はどんなのだろう。
彼のことをもっと知りたい。
でも怖くて前に踏み込めない。
彼との関係が壊れるのが怖くて。
「・・・聞きたいことがあるの」
「はい?」
やっと私の重い口が開いた。
頭の中にある言葉をつなげていく。
必死に少しずつひとつひとつ。
「あなたにとって私って何?」
必死に考えて出た言葉。
彼の動きは止まったまま。
「え?なんすかなんすか」
「答えて」
「俺にとってすごく大切な人です。俺の料理を喜んで食べてくれたり、逆に俺に笑顔をくれたり。そんな存在です」
「私はね、正直あなたみたいな人は嫌だなって思ってた。私がいつも見てきたものを手に入れるために何時間も何日も働いてやっと手に入れる。それが心の中で格好悪いって決めつけてた。でも、あなたは私に教えてくれた。誰かを笑顔にするためにあなたは笑顔を守れる力があるんだって」
「お嬢様」
「私ね、あなたの事が好き。あの日からずっと怖くて言い出せなかった。あなたと私の関係を壊したくなくて。でも逆にどんどん惹かれていった。私にとってあなたは光のような存在。常に明るく照らすから」
「・・・・・・」
彼は黙ったまま。
やっぱり駄目だったのかな。
彼はまだやっぱり。
「ほんとに俺でいいんすか」
「当たり前じゃない。あなたじゃなきゃ駄目なの。ずっと一緒にいたい」
「・・・こんな料理人の端くれの俺で良ければ。よろしくお願いします」
ようやく繋がった気持ち。
彼の顔が近くにあってどきりとする。
背伸びして彼の顔にもっと近づく。
触れるだけの優しいキス。
私は飾らない彼が好き。
他人に優しい彼が好き。
私を好きでいてくれる彼が大好き。
あなたとなら何でも出来そう。
どんな願いも叶えられそう。
私はそんな気がする。
彼は私だけの特別な人だから。