16 ずっと一緒にいたい。
「夏っぽくていいっすね」
彼が作ったのはかき氷。
カットフルーツをトッピングしたトロピカルかき氷を作った。
「そうね、美味しいわね」
「夏だし、どっか遠いとこ行きたいんですよね。今年の夏休みどんだけ取れるんだろうな。去年は1ヶ月だったけど」
「休み取れたら何する予定なの?」
「そうっすね。とりあえず、一旦愛知に帰りたいっすね。高校の時の同級生とかにも連絡取るようになったんでちょっと会いたいし、妹と婆ちゃんの様子も知りたいですし」
ひと月前くらいに彼は妹さんに手紙を書いたらしい。
返事はまだ来てないとか。
就活で忙しいんすよ、とか言ってるけど心配してるのがよく伝わってきた。
「花火大会で空に上がる花火を鑑賞したり、夕方の砂浜で沈む夕日を座りながら見たりしたいっすね」
星空を見ながら話を続ける。
知らない間に涙が出てきた。
悲しくなんてないのに、流れ落ちた涙は服の裾を小さく濡らす。
「ど、どうしたんすか」
「なんでもないから」
「なんでもないわけないじゃないっすか。急に泣き出すなんて。俺、なんかマズいこと言いました?そうだったらすいません。俺、すごい口下手なんで」
「違うの、そうじゃなくて」
手の甲で涙を拭ったときに、彼は私を抱き寄せて優しく抱きしめた。空いている私の右の手のひらをギュッと握る。
「・・・すいません」
彼の優しさがまた切なくて、涙はさらに流れていく。
「俺、人の慰め方知らなくて。どうすればいいか分かんないんすよ。お嬢様は一生俺の手に届かないのに、俺がこうしてしまったら許されはしないことだって分かってるのに。でもほんとはずっとこうしてたいって思ってる自分がどこかにいて」
彼に近づいていく度に。
彼との間に壁を感じる。
格差という見えない黒い壁。
「・・・今夜は一緒にいたい」
「俺もです」
彼が身体をゆっくり離す。
少し寂しく感じた。
まだ彼の温もりが欲しくて。
あなただけが欲しくて。
手だけはずっと繋いだまま。
ずっとずっと、こうしてたい。
お金なんか無くたって。
彼と一緒なら幸せな気がする。
いつも笑っていられそう。
間を隔てている壁も速く消えてしまえばいいのに。なかなか消えない。
もっと、彼に近づきたい。