13 お姉さん。
「それじゃあ、かんぱーい」
小百合と合流して店に入った。
こっちに戻ってきてから同じくらいにオープンしたばかりらしい。
正直、全然知らなかった。
「変わってなくて安心した」
「なにが?」
「仙台に異動になってさ、東京とは全然違う土地で1人で毎日遅くまで頑張ってみんな何してるのかなっていつも考えてた。でも数ヶ月ぶりに帰ってきてもみんないつもみたいに変わってなくて良かったなって」
「小百合も頑張ってるって聞いで俺もなんか安心した。仙台支社に異動なんて聞いた時は何か失敗でもしたのかなとか思ってたら全然そんなのじゃなくて。頑張ってる姿、カッコ良かったからさ」
「幸平も人褒めることが得意になったんだね。今までの幸平だったらそんなことできるはずもないのに」
「夏になりゃみんな変わるもんだよ。小百合が気づいてないだけだって。みんな夏から浮かれてるだけだよ。合コンとか必死に企画してるはずだから」
「ほんとに?」
「そんなもんだよ」
「幸平はあの頃のままだけどね」
あの頃のまま。
その一言で動きが止まった。
小百合は変わらず笑顔のまま。
「ね、幸平」
「今日はたくさん話そうよ。お姉さんが沢山話を聞いてあげる。友達なんだから」
小百合の方が俺より歳上だと知ったのは付き合い始めてからだった。
同じくらいだと勝手に思っていた俺はそれを聞いてかなり驚いたのを覚えている。
年上は嫌いではなかった。
一つや二つくらい離れてる方がなんだか安心できると俺は思う。
それに、誰かを好きになったらそんなの関係ないと思う。気持ちがそれのジンクスを無くしてしまうんだから。
「お姉さんって・・・」
「いいでしょ。友達なんだから」
そんな事言われたって。
俺はまだ正直いうと気まずい。
友達って何度も繰り返さないで。
俺の心が痛むから。
小百合が俺の手に持ってたグラスの淵を最初と同じように軽くぶつける。
グラスの小気味よい音と小百合の笑顔が俺の頭の中にいつまでも消えずに残っている。
俺もいつの間に楽しくなって。
前みたいに笑顔が戻ってた。
あの頃に見せてたような笑顔を。