曲がり角を曲がれば。







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第3章
11 嘘つき。
今日の営業も終わって片付け。
それと明日の食材の仕込み。


「今日も疲れたべ」


「久々に呑み行きましょうよ。木谷さんの奢りとかいいじゃないすか」


「いっつも奢るの俺じゃねーか。たまには上村とかも奢れや」


「いやいや、木谷さんなんだかんだ最年長じゃないすか。独身貴族とかカッコつけて、結婚すらしてないし」


「そのうちキレーな嫁さんと可愛い子供が俺の目の前に現れんの」


「そのうちっていつすか」


仕事終わりの些細な会話。
小百合はまだ店にいる。
新田さんと楽しそうに会話してる。


「おーい。みんな来てくれ」


新田さんがみんなを呼んだ。
新田さんの隣には、前よりも印象が違う小百合が立っている。


「仙台に異動になってた小百合ちゃんがこっちに帰ってきて、前と同じくうちの店を担当してもらうことになったからみんな引き続きよろしくな。お土産まであるらしいからお礼も言っとけよ」


「改めてよろしくお願いします」


ぺこりと深く頭を下げた小百合。
紙袋を提げて微笑みながら一人一人にお土産を手渡していく。


「うわ、なにこれ!超うまそう」


「ずんだロールケーキです。美味しくてついついすぐに食べちゃいそうですけど、一つずつ味わって食べてくださいね」


うちの先輩たちは単純だ。
すぐデレデレしてる。
ったく、だからモテない。
もうちょっと耐性つけといて。


「はい、幸平」


「・・・ありがとうございます」


最後に俺のとこに来た。
スーパー気まずい。
この状況を変えれる人、誰か。
誰でもいいからさ、助けて。


「じゃあ、一旦会社に戻ります」


俺から離れた小百合が新田さんの元に戻ってそう言うとまた頭を下げた。


「じゃあ、これからもよろしく」


「はい、頑張ります」


小百合が去っていった。
頭に浮かんだのは幸せな日々。


それが一つ一つ浮かんでは消える。
それの繰り返しだった。
笑顔の小百合しか思い出せない。


「よし、呑み行きましょ」


「今日は割り勘だよな?」


「じゃあ、上村さんの奢りで」


「お前らも出せよな。先輩が奢るのはいいけどたまにはお前らも出せよ」


「今度っす、今度」


「お疲れ様」


さっきの状況をまるで知らないお嬢様が正直羨ましい。気まずさマックスの俺を知る由もないんだし。


「あの、俺このあと夜まで用が出来たんで先に家に帰ってもらってもいいすか?」


「いいけど」


「何しててもいいんで。あ、鍵はもう先に渡しときますね」


お嬢様に鍵を手渡す。
白い小さな手が鍵を握りしめる。


「分かったわ」


「終わったらすぐ帰りますんで。俺の連絡先は知ってます・・・よね?」


「もう1度教えといて。電話帳整理してる時に間違えて消しちゃったのよ」


「なにしてんすか。はい、これが俺の番号とアドレスっす」


スマホのメモで素早く打ち込む。
お嬢様はゆっくりタップする。


「早く帰ってきなさいよ」


「分かってますよ。用件が済んだらすぐにうちに帰ります」


今の時刻は4時半。
今から1時間くらい本屋とかぶらぶらしてから小百合に電話してみようかな。


「先に帰るから」


「はい、気をつけて下さいね」


お嬢様を見送ってすぐに着替える。
それなりの格好してきて良かった。


「じゃあ、お疲れ様でした」


店を出た。スマホの手帳型のカバーケースにはさっき小百合から受け取った電話番号の書かれたメモが一つだけ。


どこ行こうかな。
時間潰すは案外苦手なんだよ。
ゆっくり街を歩くとかしかない。


「堀さん?」


スマホで時間の潰し方について検索して調べてると横から苗字を呼ばれた。
この呼び方は1人しかいない。


「飛鳥」


「お疲れ様です」


「あぁ、そっちこそお疲れ。もう大学終わって帰り道なの?」


「そうなんです。だから、ちょっと歩いてゆっくりしてから帰ろうかなぁって」


「そっかそっか。ま、俺も夜までは暇なんだよね。本屋でなんか本でも探そうかなって思ってさ」


「昨日の借り、忘れてませんよね?」


「忘れてねーよ。ちゃんと覚えてるっつーの。俺は約束は守る主義なんだよ」


「じゃあ、今してください」


「はぁ?」


「前から行きたい場所があったんです。奢ってくださいよ」


「いきなりふざけんな」


いきなりの発言。
高校からいつもこうだった。
マジメにやめて欲しいヤツ。


後でコンビニでお金下ろすか。
あーあ、手数料かかる。
今度あいつに請求してやんよ。


「ったく、おめーはほんとにしょうがねぇやつだな。・・・いいよ」


「え?ホントですか?」


「なんで嘘言わなきゃいけねーんだよ。ちょっとなら奢ってやっからさ」


「やったーー。あたしの勝ち」


勝負とかしてねーから。
折れなきゃ良かった。


「・・・用事なんて嘘じゃないの」


飛鳥と楽しく話してる。
お嬢様に見られてるとは知らない俺は飛鳥につられて少しだけ笑ってみせる。


一瞬だけなにか嫌な予感がしたけど、ほんの一瞬だったし特に気にはしなかった。


「嘘つき」


悲しそうなお嬢様を知るはずもなく。
飛鳥の右隣を歩いていた。

■筆者メッセージ
ぺこさん
ついに帰ってきちゃいましたね。
三角関係で済めばいいんですけどね笑

これからにご期待ください。

わさわささん
ありがとうございます。
そう言っていただけるだけですごく嬉しいです。
もちろん進めさせていただきます。

これからも応援よろしくお願いします。

Kohさん
ありがとうございます。
そんなこと言っていただけるなんて・・・少しだけ自信に繋がる気がします。

恋敵は多い方が盛り上がるのかもしれませんよ?笑
今後にご期待ください。

感想お待ちしております。
ガブリュー ( 2016/06/23(木) 23:35 )