07 サプライズケーキ。
今日のあいつはなんか変だ。
いつもより落ち着いてない気がする。
そーいや、明後日は俺の誕生日。
あっという間に23歳を迎える。
7月28日なんてフツーの日。
愛知で高校卒業してから2年間働いて、そっから東京に移ってもうすぐ3年。
借金もなんとか片付いたし、真司もやりたいことやってるし、未央奈だって自分の就活を頑張ってる。
ケーキなんていらない。
誕生日はシュークリームだけ。
店で働き始めてからは従業員全員から盛大に祝ってもらってた。
顔面ケーキ、寿司のロシアンルーレット、年齢×10で腕立て伏せ。
去年は駅前でナンパ企画。
一時間頑張って収穫はゼロ。
もう体育会系でしかないけど。
去年は220回腕立て伏せ。
翌日は腕が震えて何もできやしない。
今年は230回ですか。
「めちゃくちゃ食べましたね」
「あなたばっかり食べてたけど」
「お嬢様もなんだかんだ食べてましたよ。自覚がないだけっすよ」
そーいや、お嬢様っていくつだっけ。
年齢とか聞くの忘れてたわ。
帰って場所確保しなきゃ。
なんとしても削らなきゃ。
いろいろな考えが頭の中でごろごろしてる時に、テーブルに何かが置かれた。
「いや、頼んでないよ」
「あたしからのプレゼントです」
「いや、プレゼントって・・・何?」
「明後日、誕生日ですよね?もう早めに言っときます。おめでとうございます」
なんだよこいつ。
気が利くなんて珍しい。
しかも大好きなショートケーキ。
俺の誕生日も覚えていてくれた。
苺と生クリーム、ふわっとしたスポンジの味はどのケーキにも負けない。
「あの」
「ん?」
「・・・お礼の連絡待ってます」
エプロンのポケットから紙切れを取り出してテーブルに置いた。
開くと電話番号だけが書かれていた。
てか、俺のアドレス知ってるでしょ。
なんでわざわざ電話なんだよ。
「へいへい、分かったよ」
スマホの手帳ケースに紙を挟む。
そのまま勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、もう帰るわ」
5000円札をテーブルに置いた。
お嬢様を連れて店を出た。
「また連れてきてよ」
「時間があった時っすね」
そろそろ真司も帰ってきてる頃。
電話して確認しとこ。
「なに?どうしたの?」
電話をかけたらすぐに出た。
あいつこそ真の暇人かも。
「牛乳とコーヒーある?」
「え?あぁ、牛乳もコーヒーもたった今俺が両方飲み干しちゃった」
なんとなくは予想してた。
やられた。あのバカめ。
「・・・わかった。すぐ帰る」
牛乳もコーヒーもコンビニだ。
コンビニに行こう。
コンビニで両方購入。
そしていよいよ自宅の前へ。
「ここ?」
「はい。ここっすね」
鍵を開けると静かだ。
真司は熟睡してしまってる。
真司の身体にそっと布団をかける。
「この部屋、狭いんすけどここは自由に使って大丈夫っす。なんかあったら俺の部屋が右なんで何でも言ってください」
部屋の中を歩くお嬢様。
汚い部屋でほんとに良かったかな。
もっと掃除しときゃ良かった。
でも真司がしてくれて助かった。
「これは?」
「あぁ、妹と婆ちゃんです」
2人の写真を手に取った。
それから並んでいる写真のいくつかを同じように手に取ってじっと見ている。
「シャワー、使っていい?」
「タオルとかはありますんでご自由にどうぞ。なんかあったら言ってください」
「の、覗かないでよ」
中学生か。
覗きませんって、お嬢様。
俺もルールくらい知ってますよ。
「大丈夫っすから。俺も早く入りたいんで早めにお願いします」
お嬢様が去ってから、親父と母さんが写っている写真に手を合わせる。
ため息をついて部屋に戻る。
アルバムは奥にしまったまんま。
色褪せない記憶。
心に残ったままの傷。
俺はあの頃より強くなれたのかな。