06 素直になれなくて。
「はーい、飲み物です」
グラスが目の前に並ぶ。
せわしく調理している。
「今日はお客さん少ないくせに」
「堀さんの頼んだ料理がが普通の人より手間がかかるですぅ。だからこんなに急がなきゃいけないんですけど」
「はいはい。ごめんごめん」
「返事は1回。ごめんも同じです」
テーブルに料理が置かれていく。
ポテトサラダにカルパッチョ、まずはその二つが並んで置かれた。
「すぐお持ちします」
「よし、もう食べちゃいましょう」
私にフォークと箸を渡してきた。
カルパッチョを口まで導く。
「・・・美味しい」
「料理は美味しいのに店員の態度がね。俺に対してはやたらと生意気だもん」
「なんか言いました?」
ハーフステーキとビーフシチューを持ってきた女性店員は笑顔とは程遠い表情で彼の目の前に料理を置いた。
「そんなに大量の料理ばかり食べてるから付き合ってた人にもふられたんですよ。真っ先にあたしに話したくせに」
「お前しかいなかったの。職場は男ばっかりだし少なからずの女子力と乙女心を持ってるお前に妥協して相談したんだよ。もっと相談できる人はこっちも沢山いたんだよ」
「あたしだって女ですぅ。もう21歳のひとりの女性なんですけどぉ」
「はいはい。分かりましたよ」
「ふーんだ。もう相談聞かない」
「勝手にせぇ。俺も知らん」
また厨房に戻っていった。
彼とすごい親しいように見えた。
「それに比べてお嬢様はあいつと違って素敵な方ですよ。本気でそう思います」
「親しい仲じゃないの?」
「あー、いやいやいや。そんなんじゃないっすよ。ただの腐れ縁ですよ」
それから彼は私に話してくれた。
彼の表情はいきいきしてる。
店員の名前は齋藤飛鳥。
高校の後輩で偶然出会ったらしい。
今は都内の大学の3年生。
ここでアルバイトをしているとか。
「お待たせしました」
料理が揃った。
彼が頼んだからやっぱり多かった。
彼と店員さんの会話。
私はもうなんとなく分かる。
店員さんは怒りっぽく話をしてるけれど、ほんとはもっと彼と関わりたいというもどかしさと普段の性格からかツンツンしているところが邪魔をして素直になれてない。
店員さんは彼のことが好きだ。
けなしてるけど、本心じゃない。
「どうしたんすか?」
彼が心配して声をかける。
ハッと我に帰って彼を見る。
「あ、なんでもないわ。あなたってほんとに何でもよく食べるのねって思ってたの」
「ふふん。よく言われるんすよ」
「いや、褒めてないからね」
彼は気づいてなんかない。
彼女とほのかな恋心に。
遠くから皿洗いしながら店員さんは彼の食べてる姿をじっと見つめている。
彼が笑顔になる度に彼女も静かに笑みを浮かべていてなんだか嬉しそう。
彼女を応援したいのに。
素直にできない自分がそこにいた。