02 辛いのはお嬢様なんだ。
「・・・というわけでして」
店にお嬢様を連れてきた。
お嬢様はずっと下を向いたまま。
何か反応してくれ。
「それは困ったな」
新聞記事を読み返しながら、店のオーナーである大久保光次さんは何度も椅子を回転させて、たまに壁に足をぶつけている。
「うちの店をご贔屓にしていただいたお客様だからな。少しでもその恩を返したいところなんだが」
「は、はぁ」
「よし幸平。お前が引き取れ」
・・・はい?
いやいや、何言ってんの。
俺がお嬢様と同棲?
そんな冗談やめてくれ。
「丁度いいんじゃないか。お前、先月彼女と別れたんだろ。どうせなら愚痴を聞いてもらえ、ストレス発散だぞ」
オーナーに言ってないのに。
新田さんが広めやがったな。
今さら掘り返さないで、頼むから。
「あ、あの。オーナー?」
「身寄りのない女性を1人っきりにさせるわけにもいかないからな。お前はそれに慣れてるし丁度良かったな」
おいおいおいおい。
オーナー、俺の今の知っていらっしゃるんですか?
弟と二人暮らしですよ。
どう考えても住めません。
「今の給料プラス2万でどうだ?」
ふん、オーナーめ。
俺が金で動くと思ってる。
俺は了承なんてしないからな。
「はい、わかりました!」
20000であっさり了承。
あぁ、俺はほんとに単純。
金で釣られただけのアホでした。
「お嬢様、汚いですがうちでよければどうぞ。弟もいますけど」
ゆっくりと顔を上げた。
じっと俺を見つめている。
「いいの?」
「部屋の片付けしますんで、もしお嬢様がよろしければ俺は全然大丈夫っす」
俺が言い切る前にお腹の音。
周りを見渡してしまった。
「あ、お嬢様だったんだ」
「幸平、なんか作ってやれ」
「はい、了解っす」
今はランチタイムも終わって店も一旦落ち着いた頃。先輩たちも休憩だし、今ならチャンスだ。
「なんか作りますんで好きな席に座って待っててください」
厨房に向かう。
簡単なやつでいいかな。
かぼちゃスープと肉と野菜たっぷりのオムレツ、それからフランスパン。
こんな感じでいいかな。
卵を割りながら、お嬢様を見る。
あんな寂しそうな顔、初めて。
婚約者はどうしたんだろう。
バリ島の結婚式の件も。
そんなことより、今は調理。
美味しい料理を作らなきゃ。
それが今の俺に出来る唯一のこと。