05 訪れた、限界。
そのまま店からバーに向かう。
2時間くらい飲んだ後に帰宅。
そのまま小百合の部屋にイン。
翌朝目覚めたらお決まりのパターン。
2人にとっての初めての夜はほとんど記憶のないまま終わっていた。
「おはよ、幸平」
その綺麗な白い身体はタオルケットにくるまった状態で小百合は俺を抱きしめる。
俺は小百合の背中に手を回してそのすべすべの背中をそっと撫でる。
「あれ、昨日・・・」
あんまり思い出せない。
バー以降の記憶があんまりない。
「先にシャワー浴びてくるね」
「あ、あぁ。分かった」
スマホにはメールが何件。
返信しとかなきゃな。
「あれ?」
新田さんから不在着信。
一体なんだってんだ。
とりあえずこっちからかける。
「おはようございます、新田さん」
「おぉ、幸平。良かった、お前に伝言があってな」
「はい。誰からすか?」
「お前と仲良しのお嬢様だよ。お前、井上さんがいながら何してんだよ」
「いや、なんもないすから。んで、その伝言ってなんすか」
「明日の閉店後にお前に用があるんだって。というわけだから。また明日っから仕事頑張れよ」
電話が切れた。
なんでお嬢様は邪魔をするんだ。
俺は幸せになるって決めたのに。
俺はただ、お嬢様には幸せになって欲しいって思ってるのに・・・
「幸平?」
シャワーを終えた小百合が戻ってきた。一旦お嬢様を頭の中から消して、小百合の方へ話を向ける。
「あ、あぁ。何、どうしたの」
「なんか変。さっきからずっと深刻そうな顔して。何かあったの」
「い、いや。新田さんと明日の仕事の件でまたいろいろ話してさ。明日は予約のお客さんが多いから覚悟しとけって」
とっさに嘘をついた。
小百合は疑いもしなかった。
「そうなんだ。良かったぁ、幸平が何か悩んでるのかなとか思ってたから」
「ごめんごめん、心配かけて。あ、俺さ。すぐそこのコンビニで何か朝ごはん買ってくるよ。小百合はシーザーサラダとサンドイッチでいい?」
「いいの?ごめんね」
「全然全然!じゃ、行ってくる」
新しい服に着替えて部屋を出る。
エレベーターのボタンを押した。
スマホの画面を見つめたまま。
先日交換したお嬢様との連絡先。
プロフィール写真には清楚で何一つ足りてないお嬢様がいた。
小百合と付き合ってるのに。
俺はどうしてお嬢様のことばかり。
小百合が好きなんじゃないのか。
好きだから付き合ってるはず。
俺は小百合と付き合って、お嬢様のことを忘れようとしていただけだ。
小百合は俺が好き。
俺は小百合が本当に好きなのか?
初めての夜を終えたって。
お嬢様のことが頭に浮かぶ。
消したい記憶はいつまでも消えない。
「もう、駄目かもな」
俺はもう限界らしい。
小百合と付き合い続けるのは。
もう自分の気持ちに嘘をつき続けるのはこれ以上無理みたいだ。
俺は、お嬢様に会いたい。