03 記念日なのに。
その週の週末の夕方。
今日は小百合と久々のデート。
翌日の月曜日はお互いに有給を取っていたので小百合の家に泊まることになっていた。
待ち合わせはいつも街。
いつも小百合は遅れてやって来る。
「お待たせ」
白のブラウスに黒のパンツ。
今日はシンプルな服装。
いつもおしゃれなのに珍しい。
「待った?」
「毎回のごとくね」
背の低い小百合はいつも必死に背伸びをして俺とじゃれようとする。
今日は付き合い始めて2ヶ月記念日。
プレゼントだってある。
「今日はどこに行くの?」
「んー、内緒」
「幸平のけち」
「はいはい、けちで結構」
会うだけで癒される。
俺にとって小百合はそんな存在。
逆に小百合にとっての俺はどんな存在なんだろう。なかなか聞けない。
「ねぇ、お腹空いた」
「よし、どっか食べ行こうか」
会話の中で飛び出す食事。
小百合は食べることも好き。
いつもお店を調べて食べに行く。
「今日はどこ行くの?」
「俺の知り合いのお店に行ってみる?マルゲリータがすごく美味しい店なんだけど」
「え、行ってみたい!」
「んじゃ、行ってみよっか」
小百合から手を繋いでくる。
いつもそうだ。
俺は自分から手をつながない。
ほとんど小百合からだ。
頭の中で消えないお嬢様。
相手がいるって分かってる。
俺にも隣に小百合がいる。
忘れたくても消えない。
「ねぇ、幸平ったら」
「ん?あ、あぁ。ごめんごめん」
いかんいかん。
ついボーッとしてた。
小百合の話も聞けてない。
「早く行こうよ」
「う、うん。こっちだよ」
今日は記念日なのに。
頭には小百合以外の女性。
最低だって分かってる。
手を繋いでいるのに。
頭は違うことを考えてしまってる。
小百合。
俺には小百合がいるんだ。
大丈夫、自然に忘れればいい。
時間が経てば自然に忘れる。
知り合いの店まで歩く。
小百合の嬉しそうな笑顔。
俺もにっと笑い返す。
もうすぐ6月の蒸し暑い夕方の日。