02 もう忘れればいい。
「アニキ、ジュースとって」
中古で買ったゲームをやりながら真司は俺の目を見ずにゲームしている。
さっきから、サウンドがうるさい。
「もーらい、っと」
ジュースを1口飲んだ。
冷蔵庫で冷えたオレンジジュース。
真司はそれにギャーギャー言うことなくコップに移し替えて飲み始める。
真司はなんだかんだ優しかったりする。
「引越し屋はどうなの?」
「なんだかんだ面白いよ。ただで依頼人からコーヒーとかもらえるし。あと3回くらい働いたらもう1個ゲーム買う」
「今回もかけ持ちしてんのか?」
「引越し屋に居酒屋とかかな」
「流石だわ、お前すげーよ」
福岡にいた時も同じだった。
いろんなバイトをかけ持ち。
よく写真をメールで送ってくれた。
カレー屋、ビデオ屋、着ぐるみ。
真司は様々なバイトをしていた。
「アニキはどうなの?仕事は」
「2年も働けば慣れるわ。小百合が店に来る度に俺が毎回担当になるし。みんなで楽しくワイワイやってるよ」
うちの店のオーナーはうちだけでなく、他にも3つぐらい店を持っている。
経営には自信を持ってるし、メニューの大半はオーナーのレシピを参考にしてる。
楽しく、いつも笑顔で。
それがオーナーの信条だった。
「なぁ、アニキ」
「ん?」
「アニキはさ、いずれは小百合さんと結婚するつもりでいんの?」
「な、なんだよ。急にいきなり」
「・・・別に。ただなんとなく」
いきなりなんだよ、お前。
こいつ、油断できんな。
ある意味強敵だ。
「まだ付き合って間もないんだし。とりあえずは今は何も考えない」
結婚。
いや、まだ俺には早すぎるんだ。
高卒の料理店で働いてる月給おおよそ20万円の男なんて認めてくれないだろう。
親父や母さんはなんて言うかな。
喜んでくれるのかな。
親父と母さんみたいに。
仲睦まじくいられるのかな。
「親父と母さん、ラブラブだったよな」
「あぁ。あれはすごかった」
親父は母さんが大好きだった。
それは母さんも同じだった。
もちろん毎日メールは欠かさない。
親父は必ず家に直帰。
「あの2人には勝てねぇよ」
「アツアツだからね」
自然に出てしまう家族の会話。
あの日から話すのが怖い。
だから、お互いずっと黙ってた。
でももう限界だった。
気持ちを隠し通せなくなったから。
「・・・また明日も早いから寝るわ」
そう言い残して部屋に入る。
そのままベッドにダイブ。
真司の口から飛び出した『結婚』。
いつかは決めなきゃいけない。
ずっと寄り添ってくれる人を。
あと1年ぐらい小百合と付き合って。
それから俺の方からプロポーズ。
それが今の理想。
でも、それで本当に幸せか。
自信もって「幸せ」って言えるのか。
頭に浮かぶのはお嬢様ばかり。
小百合じゃなくてお嬢様。
「なんでだよ、お嬢様」
このまま忘れてしまいたい。
お嬢様のことを綺麗さっぱり。