04 行き当たりばったり。
「なんだ。知り合いなのか?」
ホールスタッフ長の新田剛さん。
俺を雇ってくれた大恩人。
「あ、いえ。特には」
「なんだよ。面白くないな」
面白くないって。
その人はいるんだよ、その人は。
「ここで働いてたの?」
「えぇ。もう2年になります」
「へぇ。料理人ならあなたも料理の一つぐらいは作れるんでしょうね?」
「えっ、あ、あぁ。はい」
「そう。なら、また来るから私のためだけにこのお店にはないスペシャルメニューを用意しておいて」
「はぁ…」
そんなん言われたって。
俺は和食専門なんですけど。
なんで洋食屋に就職したんだろ。
和食屋に就職した方が得なのに。
なんで、俺は洋食を選んだんだ。
「でも俺、料理はわしょ…」
「本当ですか!?当店をご贔屓にしていただけるなんてありがたいお話でございます。必ず用意させていただきます」
「ありがとう。これはチップの代わり」
新田さんの胸ポケットに30000円。
あ、それ。俺が欲しいです。
「じゃあ、よろしくね」
「はい。おまかせください」
いやいやいやいや!
なに勝手に承諾してんの。
俺、和食系しかダメだって。
洋食系は1回も作ったことないよ?
そんなん無理に決まってる。
アホでしょ、新田さん。
「新田さん、俺ダメっす」
「何がだよ?」
「4日後にまた来るから」
はぁ、ため息しか出ない。
地獄の4日間。
俺は料理を練習できる場所さえない。ただ仕事はキャベツの千切りとパンの発酵。それから時々、愛想笑い。
ハンバーグとか、グラタンとか。
俺は全然作れないんですけど。
これはもう終わったも同然。
笑いモンにされて店を追い出される。
それが俺の最悪のシナリオ。
なんとしても変えなきゃ。
最悪を最高に変えてやる。
よぉし、やってやる!
美味い洋食、作ってやるよ!