13 『桜』と『家族』と『愛情』。
お嬢様と並んで歩く。
何もしてなくてもキラキラしてる。
やっぱりお嬢様だ。
いろんな人が振り返って見ていく。
「この公園、桜が綺麗なのね」
「えぇ。結構名所らしいですよ」
代々木公園の桜はほぼ満開。
ピンク色の花びらが空を舞う。
「私が生まれたのがドイツのデュッセルドルフだったの。5歳の時に日本に来て初めて桜を見たの」
「ドイツ出身なんすか?ずっと日本生まれだと思ってました。びっくりしました」
お嬢様はドイツ出身だったなんて。
全然知らなかった。
「今は日本で暮らしてるの。パパの会社の業績が良くなったから。あなたはもうずっと東京に住んでいたの?」
お嬢様はガチだ。
ガチなお金持ちだった。
「あ、いえ。生まれたのは九州なんですけど、父親の転勤で小学生から愛知に住んでました。そして、働かなきゃいけなくなって東京に出稼ぎに出て来て今に至ります」
「そう。私にとってあなたって羨ましいわ。あなたはまだ御両親がお元気でしょうから。私のママは私が7歳の頃に亡くなっちゃったから。ずっと優しい叔母がいてくれたから平気だけど」
お嬢様も俺と同じだった。
俺と同じで母親を失ってた。
俺は勝手に想像していた。
俺と違って、両親と幸せそうに暮らしてるお嬢様の生活してる様子を。
「俺も母さんがもうこの世にはいません。親父も同じです。中学生の時に交通事故に巻き込まれて亡くなったんです」
お嬢様は驚いた表情に変わる。
そりゃそうだ。お嬢様も俺の両親がまだ生きてると想像してたから。
「そうだったの。ごめんなさい」
「大丈夫っすよ」
会話が途切れてしまった。
こういう時はどうすればいいんだ。
「あ、えっと。この近くに前から行ってみたい洋食屋があるんですけど、そこで食べません?結構有名なんすよ」
「いいわね。連れてって」
スマホで店の名前を検索。
ここから歩いて数分のところ。
「じゃあ、行きましょう」
並んで歩く俺とお嬢様。
心地よいそよ風と桜の木。
花びらはくるくると空を舞う。
風が桜の木を鮮やかに彩る。
ある人に見られてるとも知らずに。
会話を頑張って盛り上げる。
お嬢様はそっと微笑む。
「堀さん、どうして」
井上小百合が幸平を見つける。
二人のあとをゆっくり歩いている。
しかし隣にいた絵梨花を見つけて、幸平が笑顔で話しかけてるのを見て嫉妬の念に駆られる。
「私だけの、堀さん・・・」
他の女性に笑ってるのが許せなくて。
想いはどんどん黒ずんでいく。
自分だけのものにしたくて。
自分だけを見て欲しくて。
自然にこぶしを握っていた。