11 『カネ』と『俺の人生』。
目覚めた時は自分の部屋。
相変わらず散らかったまま。
床に落ちたままの写真立て。
小さい頃に撮った家族の写真。
親父も母さんもとっくにいない。
中3の時に交通事故で死んだ。
逆走してきた車と正面激突。
即死だったらしい。
警察官がいる中で見た2人の遺体。
眠ってるみたいで信じられなかった。
2人が死んで半年後に親父の借金が発覚。
その金額は400万円。
仕事がうまくいかなくて膨れたお金。
うちにそんな金なんてどこにもない。
相続放棄しようにも期限の3ヶ月はとっくに過ぎており、借金を返すしか道はなかった。
弁護士に相談する金もなかったし。
高校を卒業してすぐさま働いた。
昔から叶えたい夢があった。
小説家になってたくさんの人に作品を読んでもらえるような儚い夢。
生活のためにきっぱり諦めた。
働いても働いてもお金は貯まらない。
いろんな仕事を転々とした。
辿りついたのが今のお店。
新田さんに助けられたと思う。
「俺がなんとかしてやる」
借金の一部を払ってくれた。
俺を面接なしで雇ってくれた。
俺は何でここに来たんだろう?
お金のため、生活のため、自分のため。
そう言い聞かせてきた。
普通の人の数百倍はきつかったって。
『幸せ』という言葉を。
俺はその言葉を忘れかけていた。
忙しい日々の中で自然に消えた。
家族にお金を送るので精一杯で、給料袋から1枚だけ取り出して競馬に行ってみたり。
3回に1回だけ、給料の中の10000円が数倍になって帰ってきた。
でも、そう上手くはいかない。
壁に何度もぶち当たった。
それに比べてお嬢様はいいよ。
何も考えなくていいし。
親に従いさえすればいい。
おしとやかで婚約の話も勝手に進む。
有り余るほどのお金は正直羨ましい。
お嬢様が、俺たち貧乏人の普段の日常生活をするなんて無理。
逆に貧乏人の俺たちがお嬢様かの生活になったら耐えられなくなる。
そもそも、住む世界が違うんだ。
もがいても届くことのない光。
貧乏人のレッテルがある俺。
婚約者がいて、親の仕事が成功してお金は使いきれないほどあるお嬢様。
もうこの時点で同じ人間として見るなんて絶対に無理。なによりもどうして店に来てくれるんだろうか。
普通ならもっといいとこに行くのに。
スマホが震える。知らない番号からだ。
「あい、堀です」
「もう朝の11時よ。いつまで寝ぼけてるつもりなの。いい加減起きなさい」
「いや、誰すか?」
「私よ、私。生田絵梨花よ」
お嬢様からだった。
番号教えてないのに、なんでだ。
「新田さんとかいう方にあなたの情報はきっちり教えてもらったわ。2時間後に代々木公園で来なさい」
電話が切れた。
スマホのホーム画面に戻った。
いや、なにいきなり。
俺は絶対に行かないからね?
休みは休むためにある日。
それを邪魔されるなら許さない。
「俺は今日外に出ねーからな!」
部屋の片付けを始める。
少しでも過ごしやすくしたくて。
無我夢中で掃除を始めた。