08 スペシャルな1日を。
「ママ、はやくしてよぉ」
3年後。咲良のお腹の中の子供は無事に生まれた。先に行く愛娘を咲良は笑いながら追いかける。
「美咲、ちょっと待って。そんなに早いとママも追いつけないから」
「パパにおべんとうをとどけるんでしょ。はやくしないとパパがおこっちゃうよぉ」
「パパは優しいから大丈夫だよ」
「でも、さいきんけんかしてるよ」
「喧嘩じゃないの」
あれはね、美咲。…やっぱりやめた。
きょとんとするだけだろうし。
「あ、パパのかいしゃだ」
エレベーターとは別にある東京エクスまで続く階段を一段ずつ順序よく上っていく美咲。咲良は美咲と手を繋いで会社のドアの前にまで来る。
咲良がドアを開けてやると美咲は勢い良く飛び出して雅史の元へ向かう。
「パパ!」
「美咲?ってことはママも一緒か」
その大きな目で雅史を見つめながら頷くと、咲良が遅れて入ってきた。雅史に弁当を渡すと美咲は咲良のもとに戻る。
「どうしました、雅史くん?おや、新米お母さんと娘さんですね。これはどうも」
「立花課長、お久しぶりです」
「いやいや、元気そうで安心しました。そっくりですよ、咲良ちゃんの良いとこを娘さんがそのまま取り入れた感じですね」
美咲は立花の足元で止まってじっと見つめる。早足で咲良の背後に隠れる。
「ママ、こわいよ」
「ママの恩人なのよ。挨拶して」
咲良を使って隠れながら、小声で名前を名乗った美咲。立花は膝を曲げて目線を合わせてにこりと笑う。
「あなたのお父さんの上司です。立花おじちゃんって呼んでください」
お昼ご飯を買いに行ってた将太達も戻ってきて、大盛り上がり。
美咲は皆の心を虜にして、そのうちのまりやにすっかり懐いてしまった。まりやの近くにいる時はずっとニコニコしたまま。
「ほら、パパにお弁当も届けたんだから。美咲、帰ろっか」
手を叩いて娘を呼ぶ咲良。会社を出て東京の空を見上げる。九州にいた頃とは違うけれど、ほとんど変わりのない青い空。
「明日もいい日になりますように」
そう呟くと、なんだか気分が晴れた。
今日も楽しい一日になるかも。
美咲と手を繋いで帰っていった。