05 手紙。
「楽しかったな」
「すごく楽しかった」
送別会が終わってから、雅史と咲良は手を繋いで夜道を歩いていた。繋がれた手はあたたかくて優しく感じた。
「課長から手紙もらっちゃった。まだ開けてないんだよね。家に帰って1人で読んでくださいって言われたからまだ読めない」
バッグの中から、手紙を取り出した。青い封筒で『宮脇咲良様』とボールペンで丁寧に書かれた文字。立花が帰り際に渡したものだった。
「早くうちに帰ろう。もう夜も遅いし、なにせ咲良は未来のお母さんだから」
「ちょっとバカにしてる?私がお母さんになるって言っても雅史もパパになるんだよ。結局は私たちは一緒なんだよ」
「俺は男の子がいいな。俺の味方になってくれるだろうしな。咲良と喧嘩しちゃった時は俺を少しでも有利にしよう」
「いやいや女の子でしょ。私に似て、べっぴんさんで雅史とは正反対の爽やかな旦那さんを見つけてくるしね」
「ふざけんな。俺がまるでダメ旦那みたいじゃねぇか。おれはそんなんじゃねぇし」
産まれてくる子供のことを想像しながらどうでもいい言い争いをしてるうちに、自宅に着いてしまった。先に雅史からシャワーを浴びることに決めた。
雅史はシャワーを浴びた後にすぐに眠りについてしまった。咲良はバッグの中から立花からの手紙を取り出して便箋を開く。
宮脇咲良様へ
咲良ちゃんの退職、非常に残念です。東京エクスに就職した咲良ちゃんはまりやちゃんに負けないぐらい仕事熱心でした。雅史くんと仕事をしてる咲良ちゃんと雅史くんは誰から見てもお似合いのお二人でした。
そして、咲良ちゃんは雅史くんと結婚。それからお腹の中には新しい命。咲良ちゃんのお腹には雅史くんと咲良ちゃんによく似た可愛い子供がすくすく育っていることでしょう。
これからは雅史くんの奥さん、子供のお母さんとして咲良ちゃんは成長することでしょう。かけがえのない素敵な家族を大事にしてください。
最高のお嫁さんになってください。
笑顔の素敵なお母さんになってください。
最後に、あなたは僕の素敵な部下でした。
月のように優しく、太陽のように情熱溢れた仕事への意欲。月と太陽をあわせ持つ人間はなかなかいるものではありません。
雅史くんと子供を大事にしてください。
東京エクス 立花博昭
手紙に涙が1粒落ちる。立花の最後まで咲良を優しく接してくれた姿勢が嬉しかった。普通だったら嫌そうな顔をして、上司が退職をしぶしぶ認めるような職場がほとんど。ひとりひとりが自分のことのように喜んでくれる。東京エクスは咲良にとっての第2の家族。
立花課長の部下で、本当に良かった。
それだけは今ならはっきり言える。