04 スペシャルゲスト。
「えっと、今日は私たちのために集まって盛大に祝っていただき、ありがとうございます」
スピーチが始まった。翔伍はまだ来ない。
俺は李奈の次。晴美や杏奈はもう既に涙ぐんでいる。まりやと咲良はグラスを手に持って李奈のスピーチを聞いていた。
「雅史と幸せになります。絶対に」
拍手が起こる。李奈のスピーチが終わったようだ。胸ポケットにスピーチの紙が、あれ?紙が、紙が…
「どうしたの?」
「やべ。スピーチの紙がない。たぶん、着替えた時に忘れてきたかも」
「えっ!どうするの?」
「それでは、今度は新婦のスピーチです」
松田は慌てている雅史の様子に気づかず、司会を続ける。勢い良く立ち上がって、マイクの前に立つ。
「えー…あー、あの。スピーチの紙を忘れちゃって。すみません、伝えきれない思いが沢山あるのでなんとか少しずつ話していきたいと思います」
会場にどっと笑いが起こる。頭を掻きながら雅史はスピーチを続ける。
「僕は特に感謝したい人が7人います。まずは松田裕人、荒木宗孝、本多忠臣、酒井次晴」
「彼らは中学時代の剣道部の後輩です。コーチからいつもバカ4人組と呼ばれていつも4人で他の人が絶対やらないようなことばかりやってました。ほんとにバカです。でも、勝負に対してはストイックで。僕が引退した後に団体戦で4人で出場した試合で上位入賞。試合の時もいつも助けられてました。これからはまた皆で集まって、楽しめたらなと思います。本当にありがとう」
4人が会釈する。松田はにやけて手を頭に置いて照れている。
「それから、武本昭夫さん」
スーツ姿の武本が雅史の方を向く。
「親代わりとして、俺を育ててくれました。ありがとうございました。おかげでここまで大きくなることが出来ました。ただ育ててもらうだけでなく、人との付き合い方や恥ずかしくない生き方を教わりました。本当にありがとうございます。今度は東京に来てください。多少だけど、観光案内もできるまでになりましたので」
袖で顔を覆って、震えている。
ゴシゴシこすって袖で涙を拭く。
「それから、東京エクスのみなさんも僕を育ててくれました。立花博昭課長を始め、先輩方からいつも怒られてます。でも、本当に楽しい仕事で毎日やりがいを感じます」
「そして、僕の奥さんになる李奈さん。あなたと一緒に居れる僕は世界一の幸せ者です。誰にも負けないぐらいあなたが好きです。ずっとずっと変わることはありません。彼女とは幼なじみでした。皆さんもご存知の通り、彼女はよく怒ります。たくさん喧嘩します、そして何気にケチです。…ですが、僕は、李奈さんのほかの人とは違うちょっとした変なところも好きです。本当に僕と結婚してくれてありがとう」
李奈は涙を流している。雅史もつられて泣きそうになるが、翔伍の分のスピーチを続ける。
「そして、最後に。僕の一番の親友である武藤翔伍について…」
ドアが開く。息を切らした翔伍が入ってきた。その後からは、雅史の父親、母親、そして兄の正純が入ってきた。
翔伍は時間ぎりぎりまで、雅史の家族をもう一度つなぎ合わせるために奔走していたのだった。変わってなかった家族の顔に安堵して、同時にいろんな思いがこみ上げてきた。
思いがけない親友と長く会ってなかった家族の登場で涙をこらえきれなくなって顔を俯かせる。
すぐに顔を真っ直ぐにして、涙を拭いてにこりとわらってスピーチを締める。
「僕を支えてくれた全ての人に感謝します。李奈!本当に結婚してくれてありがとう」
勢いよく抱きついてくる。李奈をお姫様抱っこすると、再び歓声が起こって、2人のいい笑顔よ表情がカメラのレンズの中で光っていた。