遠恋









小説トップ
第4章
07 ビーチ。
「ふー、食ったな」


ほぼ食材がなくなり、バーベキューも終盤。手分けして片付けも終えたのは午後3時。明日はまたいつも通り平日に戻るので6時30分にここを出発することになった。


本多を除いたバカ4人組は片付け終わったあとに眠ってしまった。本多は諦めきれないのかもう一度釣りに出かけていった。


残ったのは俺と李奈と咲良とまりやさん、それから翔伍。


「松岡、ちょっと来て」


「なんすか?」


「いいから、ほら」


海岸に連れていかれる。咲良と李奈と翔伍を残して、俺はまりやさんに手を引かれる。ちょっとだけ強くて痛い。


「ちょっ、痛いっすよ…」


俺の言葉をまりやさんはスルー。
急に止まったかと思うと俺をドンッと押して俺は身体を支えきれずに倒れる。


運悪く、倒れた場所が場所だけに海水で俺のTシャツが濡れてしまう。ズボンのポケットに入れていたスマホは無事なので安心した。


「なにするんすか。まりやさんがそんなことするんなら、俺だって」


手で海水をすくって、まりやさんにかける。海水はまりやさんの髪にかかる。まりやさんはサンダルを脱いで裸足になった後に俺に続いて海の中に足だけ海水の中へ。


スマホが濡れるとまずいので、とりあえずは首に巻いておいたタオルに包んで砂浜に投げた。その直後にまりやさんが俺の胸を手で押して俺を再度倒した。今度は言うまでもなく、全身が水浸しになる。


「やりー。どんまい、松岡」


「やりましたね」


「松岡だから、アタシはやるのよ」


今度は俺がまりやさんの肩を押して、海の中に。海水でまりやさんのパッションブルーTシャツが透ける。下は水色のビキニらしい。


「あっちゃー、濡れちゃった。泳ぐつもりで来たから別にいいけど」


もう開き直って、まりやさんは肩まで浸かる。俺もそれに続く形で肩まで沈められた。


「このまま、話さない?」


「俺は構わないっすよ」


「じゃあ、続けていいね。こんなの初めてだからちょっとだけ新鮮かも」


海の中にあった貝殻を左手持ったまま、それを俺の頭にちょこんと乗せた。


「なんすか、これ」


「サザエかな、これ」


サザエかな、じゃないよ。
これじゃラッコと飼育員じゃないか。


俺がラッコでまりやさんが飼育員。
考えるだけで、笑えた。


「あ、笑った」


「笑いますよ、だってまりやさん」


2人で声に出して笑う。
俺は顔だけ海の中に潜って、手探りで岩の近くにあったものを手に掴んだ。


「まりやさん、これあげます」


目を開けて、確認する。
俺の手には小さな貝殻が手の内にある。


「松岡からの初プレゼント?」


「そうっす、貝殻っすよ」


まりやさんの手を取って、その小さな貝殻をそっと手の内の真ん中に置いた。


「…嬉しい」


「良かったっす。喜んでもらえて」


まりやさんが俺の頬を貝殻を握りしめているもう片方の手で優しく撫でる。女性らしい細い指が陶器を扱うかのようにそっと、優しく撫でる。


「な、なんすか。どうしたんすか」


海の中に押し倒される。
目の中に海水が入らないように、咄嗟に目を閉じる。何も見えなくて状況が理解出来ないまま、俺の唇に何かが重なる。


ぽってりした柔らかい唇。それがまりやさんの唇と分かるまで時間はかからなかった。


俺がまりやさんに海の中に沈められる直前に小さな声で聞こえた言葉。


「松岡、やっぱりあなたが好き…」

■筆者メッセージ
作品を書いてて、時々すごく羨ましくなります。

ありそうでないこと、なさそうであることの境界線が曖昧です。


この作品を書く際は、曲を流しながら執筆しています。


そうしないと、なかなかアイデアが浮かばないので。


感想お待ちしてます。
ガブリュー ( 2015/12/26(土) 22:55 )