03 まりやさん。
翔伍が交渉して、貸し出されることになった別荘に着くと、一番最初に松田が車を降りて周りの景色に感激して叫んでいる。それから、ぞくぞくと降りていく。
「うわ、スッゲェ!翔伍先輩、なんすか。こんなとこ知ってたなんて、もうマジで最高っすよ」
目の前には海、周りには木。バーベキューをする場所にしては最高の条件が揃ったとっておきの場所、と言っても言い過ぎではない。
「よし、係を分担すっか」
荷物を下ろして、準備を行う際の恒例の係決め。翔伍はバカ4人組のうちの松田と荒木で炭火焼の用意。本多と酒井は釣竿を持って釣りに出かけていった。
残ったのは、俺とまりやさんと李奈と咲良。咲良は翔伍に呼ばれていった。たぶん、手際が良いから翔伍のヘルプ係だろう。
「雅史、野菜買ってきて」
「はぁ?マジかよ」
「車貸すからさ。近くのスーパーまで玉ねぎとキャベツ、それから焼肉のタレ3本くらい。よろしく、じゃあな」
「ったく、翔伍のヤツ。買出しはいっつも俺に頼みやがって…」
愚痴を言いながら、車に乗り込む。
俺と同じタイミングで助手席に1人誰かが乗ってくる。
「まりやさん」
「松岡、アタシも連れてって」
「いいですけど。どうせ買出しなんで、すぐに終わりますよ。どうせなら、ここに残っててもいいんすよ」
「いいから、ほら早く」
「分かりましたよ。李奈、翔伍の手伝いをしてて。すぐ戻るから」
車を出して、スーパーに向かう。
まりやさんがスマホを操作して、運転してる俺を撮影し始めた。
「ちょっと、やめてくださいよ。なにしてんすか。写真撮らないでください」
「課長とか将太さんに見せよーっと。松岡のこんなの結構新鮮だから」
くそっ、まりやさんめ。
何かあれば俺を振り回して。
気づけば、俺は、笑いながらまりやさんと話をしていた。こんなに振り回されてまりやさんのマイペースっぷりにいつの間にか捕まってる。
撮影しながら笑っているまりやさんに、俺は苦笑いして左手で後頭部を掻く。
「まりやさんには、勝てないっすよ」