09 ごちそう。
雅史の自宅に向かう。少し小さめの部屋だけど、雅史と翔伍で暮らすには丁度いいくらいの部屋の大きさ。
ドアの前のインターホンを押す。
「お、来たか。今開けるよ」
ドアが開くと、にっこりした表情をした翔伍が迎えてくれた。いつものように片付けられた家の中。忙しい雅史に変わって翔伍がいつも掃除をしてくれてるんだろう。
「おー、よく来たな。上がれ」
まるで自分のうちのように、私を招き入れてくれた。テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいる。
「今日はどうだったんだよ」
「どうだった?」
「どうだった、じゃなくて。今日は雅史と出かけてきたんだろ。感想はどうだった?」
「あ、あぁ…そういうことね。別に至って普通だったよ」
「あー、李奈から見てもそんな感じか。いや、俺もここに来た時に雅史に久しぶりに会って、あいつも忙しい中で自然に東京に染まっちまったんだなーって思ったんだけどさ、相変わらず優しいんだよな」
「あいつらしいけどさ」
「だよね。雅史はぶっきらぼうで不器用だけど、ほんとは誰よりも優しいんだよ」
「うんうん。よし、早速だけどメシ食おうぜ。作ったのに冷えちまうし」
床に座って、テーブルの上の料理を見る。味噌汁、白いご飯、それから大皿にのったいくつかのハンバーグ。
「あ、ハンバーグ…」
「ハンバーグがどうかした?」
「いや、別に何でもないよ」
「ハンバーグはハンバーグでも、チーズが入ったハンバーグにしてさ。結構苦労したんだぜ。遠慮しないで食えよ」
「…うん、食べよっかな」
今の私は、たぶんこの世の食べ物の中でハンバーグが嫌いみたいだ。雅史に振る舞うはずだったハンバーグは、翔伍に振舞ってもらっている。
胸が苦しくなって、切なくていまいち食が進まない。
「美味しい、よ」
それでも、何も食べないのはさすがに翔伍に悪いのでハンバーグを食べてみる。翔伍が作った料理だけあって、美味しい。
「良かったぁ。マズいとか言われたら、来年の俺は実家の肉屋を継げなくなるし」
「あはは、翔伍なら大丈夫だよ。ちゃんとやっていけるって。そう思うもん」
「さすが、俺と同じ道に進む李奈だ。もっと食えよ。あ、待て!俺の分残しとけよ」
「翔伍がこんなに作ったから、食べきれないって。大丈夫、余るから」
少しだけほっとした。
翔伍も相変わらずあの頃みたいに誰かを笑顔に出来るような人のままだったから。