遠恋









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第2章
11 ゲーセンデート(?)
「ここは?」


「ゲームセンター」


「見れば分かるよ。なんで?」


「いいから、ほら」


ゲームの騒がしい音が、耳を刺激する。首を2、3回振って無理やり酔いを覚ます。息を吐いてゲーセンの中に入る。


「…………」


李奈が無言でクレーンゲームの景品を見つめている。なんとなく、その景品が欲しいってことが分かったので背後からのぞき込む。


「何?欲しいの?」


「ち、違うし。見てただけ」


「どれ。久々にやってみようかな」


財布から100円を取り出して、入口に投入した。
ぬいぐるみめがけて、クレーンをボタンで操作する。


「よし、ここだ」


クレーンがぬいぐるみを掴んで、持ち上げる。そのまま、景品口まで持ってくるとぬいぐるみは出口に落ちた。


「ほら、やるよ。1発で取れたし」


ぬいぐるみを受け取った李奈は、笑みを我慢しながら、ありがとう、と俺に言ってぬいぐるみを抱きしめる。


「雅史、いつの間にそんなクレーンゲームが上手かったの?」


「高校の時に、翔伍たちとよくゲーセン行ってたからかな。結構極めたんかな」


「へー。じゃあ、あれ取ってよ」


「いいけど…」


李奈が指さす景品をほぼ1発で取っていく。大人数用のキットカット、ポテトチップス、手に余るように取っていく。


「摂りすぎだろ、どうすんだよ」


「二人で山分け。キットカットは私ので確定ね。杏奈ちゃんと食べるから」


「ふざけんな。俺が決める権限あるわ。最初のぬいぐるみ以外は俺が決めるからな」


「ケチ、どケチ」


「ふん、勝手にしろ」


ゲーセンからの帰り道、俺たちの両手には沢山の景品が袋に入っていた。一応、李奈の願望どおり、キットカットは李奈にあげようと考えているが、巨大板チョコは俺の物だ。


「意外だったな。雅史って変なとこで才能が開花するよね。他のとこで開花させちゃえばいいのね」


「それが出来てたら苦労しとらんわ」


李奈がクスクスと笑い始める。俺も李奈の笑顔を見て自然に笑顔になれる。李奈の笑顔はなぜか安心する。




「あぁー、美味しかった」


「まりやさん、飲みすぎですよ。帰れるんですか?」


「タクシー乗って帰るから、咲良も一緒に帰ろうよ。…あれ。ねぇ、咲良」


「どうしたんですか?」


「あれ、松岡じゃない?ほら、女の子と並んで歩いてるあれ」


飲んでいた咲良とまりやは、雅史と李奈が並んで笑いながら歩いているのを偶然目撃する。


「松岡、付き合ってたんだね。あれはゲーセンデートの帰りってとこか。ふーん、松岡もやるなぁ。…咲良?」


「まりやさん、すみません。私、歩いて帰ります。今日はありがとうございました」


「咲良、タクシー呼ぶよ。乗っていきなって。夜も遅いんだし」


「大丈夫です。家、近いんで」


まりやを振り切って二人のあとを追う。
見失わない程度でゆっくり歩く。振り返らないように気配を消しながら。

ガブリュー ( 2015/11/30(月) 21:56 )