11 ゲーセンデート(?)
「ここは?」
「ゲームセンター」
「見れば分かるよ。なんで?」
「いいから、ほら」
ゲームの騒がしい音が、耳を刺激する。首を2、3回振って無理やり酔いを覚ます。息を吐いてゲーセンの中に入る。
「…………」
李奈が無言でクレーンゲームの景品を見つめている。なんとなく、その景品が欲しいってことが分かったので背後からのぞき込む。
「何?欲しいの?」
「ち、違うし。見てただけ」
「どれ。久々にやってみようかな」
財布から100円を取り出して、入口に投入した。
ぬいぐるみめがけて、クレーンをボタンで操作する。
「よし、ここだ」
クレーンがぬいぐるみを掴んで、持ち上げる。そのまま、景品口まで持ってくるとぬいぐるみは出口に落ちた。
「ほら、やるよ。1発で取れたし」
ぬいぐるみを受け取った李奈は、笑みを我慢しながら、ありがとう、と俺に言ってぬいぐるみを抱きしめる。
「雅史、いつの間にそんなクレーンゲームが上手かったの?」
「高校の時に、翔伍たちとよくゲーセン行ってたからかな。結構極めたんかな」
「へー。じゃあ、あれ取ってよ」
「いいけど…」
李奈が指さす景品をほぼ1発で取っていく。大人数用のキットカット、ポテトチップス、手に余るように取っていく。
「摂りすぎだろ、どうすんだよ」
「二人で山分け。キットカットは私ので確定ね。杏奈ちゃんと食べるから」
「ふざけんな。俺が決める権限あるわ。最初のぬいぐるみ以外は俺が決めるからな」
「ケチ、どケチ」
「ふん、勝手にしろ」
ゲーセンからの帰り道、俺たちの両手には沢山の景品が袋に入っていた。一応、李奈の願望どおり、キットカットは李奈にあげようと考えているが、巨大板チョコは俺の物だ。
「意外だったな。雅史って変なとこで才能が開花するよね。他のとこで開花させちゃえばいいのね」
「それが出来てたら苦労しとらんわ」
李奈がクスクスと笑い始める。俺も李奈の笑顔を見て自然に笑顔になれる。李奈の笑顔はなぜか安心する。
「あぁー、美味しかった」
「まりやさん、飲みすぎですよ。帰れるんですか?」
「タクシー乗って帰るから、咲良も一緒に帰ろうよ。…あれ。ねぇ、咲良」
「どうしたんですか?」
「あれ、松岡じゃない?ほら、女の子と並んで歩いてるあれ」
飲んでいた咲良とまりやは、雅史と李奈が並んで笑いながら歩いているのを偶然目撃する。
「松岡、付き合ってたんだね。あれはゲーセンデートの帰りってとこか。ふーん、松岡もやるなぁ。…咲良?」
「まりやさん、すみません。私、歩いて帰ります。今日はありがとうございました」
「咲良、タクシー呼ぶよ。乗っていきなって。夜も遅いんだし」
「大丈夫です。家、近いんで」
まりやを振り切って二人のあとを追う。
見失わない程度でゆっくり歩く。振り返らないように気配を消しながら。