10 BAR。
李奈から連れられて、1軒のバーにやってきた。
入山さんとよく来ているらしい。ここの店長さんは女性で身長が高く、少しドジだという。名前が『晴美』という名前から常連さんから『はるちゃん』というあだ名で呼ばれてる。
「結構いい店だな」
「でしょ?安心するの」
「お待たせ、りっちゃん」
晴美さんが李奈の前に1杯のカクテルを出した。俺はカッコつけてビールを頼んだ。
「ふー、美味しい」
「う、苦っ…」
「もしかして、ビール飲めないの?」
「うるっせーな、どうでもいいだろ」
李奈に冷やかされるのも、なんだか懐かしい。グラスを少しずつ飲んでいく。上唇を舌で濡らしながら李奈の様子をうかがう。
「あれ、雅史もう顔赤いよ」
「は?」
手鏡を渡されて、顔を確認する。李奈の言うとおり顔が赤い。まだそこまで飲んでないのに。なんてこった、この前の飲み会でのパワーはもう微塵もなかった。
「ふーん、りっちゃんも彼氏連れてくる年頃になっちゃったんだ。優しそうな人じゃん」
「晴美さん、違います。私が地元にいた頃の幼なじみです。今は東京で働いてます」
「彼、すごくお酒弱いんだね。ビールを半分しか飲んでないのにもう顔真っ赤。面白い子だね」
「ま、まぁ」
二人の会話なんて、まったく頭に入ってこない。酒との酔いに打ち勝つしかない。なんとかぐらぐらする頭を起こして水を頼んだ。
「大丈夫?雅史」
「たぶん」
「無理しない方が…」
「大丈夫なもんは大丈夫なんだよ。水飲めば、俺は大丈夫だから」
水をひと思いに飲み干す。富山の水とは違うカルキ臭のする水。去年までは苦労していたが、なんとか慣れた。水が胃の中に流れ込んでいくと少しだけ酔いが覚めた。
「お、復活した。彼氏くんの話も聞きたいなぁ。お仕事何してるんですか?」
「え?あ、俺は小さい出版社に勤めてます。昔っから本が好きだったので」
「いいねいいね、意外だ。名前教えて」
「松岡雅史です」
「マサフミくん!りっちゃんが惚れたのが分かったかも。私さ、今は彼氏いないからマサフミくんなら大歓迎かも」
「えっ、いやいや…」
晴美さんとの会話がサクサク進む。気さくなイメージはあったけれど、予想以上に気さくな人だった。話していて楽しかった。
「じゃあ、晴美さん。私たちそろそろ帰ります。はい、今日の分です」
李奈がカウンターに五千円を置いて、店を後にした。
「また来てねー」
晴美さんが大きく手を振ってくれた。俺は振り返って会釈して俺も店を出た。
「次、行こう」
「次って?」
「いいから、ほら」
李奈が俺の手を取って、夜の街を歩いていく。それに引っ張られる形で酔って焦点の合わない夜の道を歩いていった。