05 帰り道。
まだそこまではない6月の昼。照りつける日差しは日に日に強くなっている。地球温暖化もいいとこだ。いい迷惑だ。
「でも、良かったね。谷田さん、すっごく優しかったし、赤ちゃんも可愛いし」
「ほんと良かったよ。あの子、えーっと、あの、美久ちゃんだっけ?あの可愛さは反則級だって。だってベビーベッドの横に猫が見張るようにして寝てるし」
「そうそう、美久ちゃん。可愛かったなぁ。これで、もう少しで完成できるね」
谷田さんとのアポは思った以上に上手くいき、ほぼ談笑みたいになっていた。谷田さんの愛猫、雌猫のナツ美は俺の膝に座って、帰るギリギリまで俺の膝から離れようとはしなかった。
普段は、美久と私と旦那以外のお客さんなんて近づきさえもしないんですよ。谷田さんは猫を抱き上げながらそう言った。
「松岡くん、猫にモテてたよ。良かったね、丁度猫も女の子だったし」
「流石に猫はなぁ。うん、恋人にするなら人間の方が良いです」
「よし。松岡くんが猫と結婚するなら、私も結婚式呼んでよ。一応、祝福ぐらいはちゃんとしてあげるから」
「だから、俺は猫と結婚しないの。ちゃんと、人間の相手を見つけて…」
自分の言葉の途中で、止まってしまう。宮脇さんはそれに気づいて顔を俺の方へ向ける。
真っ先に思い浮かんだ俺のそばにいてくれる女性はやっぱり李奈だった。
付き合ってた頃、付き合う前の頃。いろんな李奈を見てきた。泣いた李奈、怒った李奈、笑った李奈。困り顔の李奈。
李奈に会いたい。何してるのかが気になってしまう。連絡したくても、連絡出来ずにこの1年過ごしてきた。今度こそ、もう二度と李奈を失いたくなんてない。絶対にもう、李奈を泣かせたりなんて…
「松岡くん?」
「っ、あぁ。ごめんごめん」
「大丈夫?ボーッとしてたよ」
「大丈夫大丈夫。あ、早く戻んないとさ。またまりやさんになんか言われるかも」
「げっ、早く戻ろ。ほら早くして」
ちょっと小走りで地下鉄の階段まで走り始める宮脇さん。宮脇さん。また追いかけるような形で新宿駅の地下鉄へ向かう。