12 咲良。
途中で買った傘は道に置いたまま、雨に濡れながら帰った。道行く人々はカップルが傘に入ってお互いに笑いながら帰ってたり、傘もささずに雨に濡れる俺を見てびっくりする人だっていた。
すべてがどうでも良くなった。今まで自分が頑張ってた理由も、自分の夢も。雷も鳴り始める。小さく歩幅を変えることなくマンションに帰る。
階段を上がり、部屋の道を歩いて部屋まで行くと、宮脇さんが部屋の前で心配そうに待っててくれていた。雨に濡れている俺を見て心配そうな顔をして近づいてくる。
「松岡くん…傘ぐらいさしなよ」
「あぁ」
力のない返事をして、部屋に入ろうとすると後ろから宮脇さんが俺を抱きしめた。俺は宮脇さんを濡らすわけにもいかず腰あたりにある宮脇さんの手を優しくほどく。
「宮脇さんまで濡れるから」
「少しくらい濡れたっていいよ。だって、雅史なんだから」
松岡くんから、雅史へと呼び方が変わる。手から落ちる雨の雫が床に落ちる。
「宮脇さん」
「今は、咲良って呼んで」
「…咲良」
「何も言わなくていいから。雅史が付き合ってて別れた人が川栄さんなんでしょ?何を言われたかは分からないけど、私は雅史の味方だよ」
居心地良くて、安心できる。李奈よりも少し小さいけど、咲良の身体の熱が伝わってくる。ドアに頭を項垂れる。
「うち、来ない?」
「…うん」
李奈をすぐに忘れたかった。どんなことをしてでも忘れようとしたかった。咲良からの誘いもあっさり承諾した。玄関にある傘を一本取って、着替えと財布、スマホを持って2人で雨の中を傘に入って咲良の家に向かった。