遠恋









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第1章
09 再会。
翔伍には合鍵を渡してるので、部屋の鍵はかかってない。こっそり開けると5、6人の靴が並べられている。その中で水玉の女性もののサンダルがあった。たぶん、李奈のだ。


「ただい…」


リビングに入ると、いきなり目の前にクラッカーを持った翔伍が現れて、パーンと紐を引いてひらひらと紙吹雪が宙に舞う。


「おかえりー、雅史!俺が片っ端から連絡しまくったから、結構来てくれたんだぜっ」


「うちが狭いの知ってるよな?人が来ても入んねぇことぐらい考えとけ」


「その考えなかったっすわ。先輩、仕事お疲れっす。あ、わざわざ買ってきてくれたんすか。あざまーす」


松田に合わせて、数人が会釈した。中学時代の剣道部の後輩たち。バカ学年とコーチに呼ばれてたあの1つ下の4人組がソファに座ってた。


「てめぇ、松田。それから荒木、本多、酒井。なに勝手に上がってんだよ」


「いやー、翔伍先輩に誘われたんで。てか、先輩が彼女連れてる!うっわ、やらしくなって。いつの間に」


背後に隠れてた宮脇さんを松田が見つける。前に出ようとした宮脇さんを手で止めて、説明を始めた。


「俺の会社の同僚…」


「で、友達の宮脇咲良です。よろしくお願いします」


前に割って入った宮脇さんが皆の前でぺこりと礼をした。その勢いで手に持ってた買い物袋を勢い良く床に落としてしまう。


少しおっちょこちょいな宮脇さんのおかげで、部屋の中がどっと明るくなった。


「じゃあ、買ってきたのは冷蔵庫入れとくから。お前ら、先に飲んでろよ」


冷蔵庫の前へ買い物袋を持っていく。入れ終わった後に部屋に向かうと、今1番会いたくて会いたくない人がいた。


「おかえり」


向こうの盛り上がる声をかき消すかのような1年ぶりの李奈の声。いろいろ言いたいことが頭の中でこんがらがって、なんとか喉から声を絞り出す、


「…た、ただいま」


大人びて、あの頃よりもさらに綺麗になった李奈が俺の目の前にいた。

ガブリュー ( 2015/11/23(月) 00:13 )