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昨日の一件を受け、日向坂高校では5人以上の集団下校を義務付けられることになり、帰り道は極力一人にならないようにと、生徒たち全員に指導があった。
小坂たちも一人で行動するのを避け、金村、渡邉、丹生、そして隣のクラスで小坂と同じ図書委員を務めている宮田愛萌も一緒になって、5人で正門を潜り抜けた。
「それにしても、みんなで一緒に動くなんて、なんだか遠足みたいでワクワクしちゃうね!」
小坂と宮田は昨日の状況を知らない為、宮田は並んで歩きながら、呑気なことを呟いた。
いつも能天気な丹生も流石に昨日の出来事が怖かったようで、顔をしかめながら、顔の前で手を振り、宮田の言葉を否定した。
「そんな楽しいものじゃないよぉ、もうめっちゃ怖かったんだから…!」
「でも美穂の『知り合い』が助けてくれたんでしょ?」
「知り合いじゃないよ。昨日初めて会ったばっかだったし…」
「でもピンチの時に現れるなんて、白馬の王子様みたいで格好いいじゃん!ロマンチックで憧れるなぁ」
宮田も丹生と同じように浮ついた話が大好物で、ロマンチストである彼女は大好きな古典文学でも『源氏物語』の世界観に夢憧れている少女であった。
「だからぁ、そんなんじゃないって」
渡邉はくどく追及をしてくる二人をあしらっていたが、実を言うと今日一日、昨日助けてくれた笠井という人物の顔が彼女の頭から離れずにいたのは確かなことだった。
今まで抱いたことがないような不思議な感覚に、渡邉は戸惑いを隠せずにいた。
そんな三人の横で小坂は端を歩く金村の様子を気にかけていた。
ここ数日、彼女にいつものような元気がないのは、本人が隠しているつもりでも小学生の付き合いからよく分かっている。
こういう時、彼女に大丈夫かと尋ねても、決まって作り笑いをして心配をかけさせないようにしてくるのだろう。
普段の彼女であればこのまま放置していても、自然とどこかで心の踏ん切りをつけて、またいつものように元気になって戻ってくれるのだが、先日、友達を助けるために勢いよく走りだした篠田の姿を見て、小坂も友人のために何かをしてあげたいという思いが芽生えるようになっていた。