第六章『確証』
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 ひとまず篠田が出てくるのを校門の前で待つことにした彼らは、二人並んでガードレールの上に腰を下ろした。

 ガードレールに腰を下ろすことなど小坂は生まれて初めてだったが、縦に平たいガードレールが臀部に突き刺さり、座り心地があまり良くなかったので、そこに凭れるように立った。

 二人で並んで待ってみているものの、いまさら篠田に会って何を話せばいいのか。緒方がそんなことを考えていると、隣に立つ少女が再びメモアプリの画面を見せてきた。


[篠田くんのお友達なんですよね?]


 "友達"という言葉にどう返せばよいのか、緒方は少し躊躇ってしまった。

 確かに篠田は、今でも自分のことを友人だと言ってくれている。

 だが様々なことがあってから、緒方の中で彼の存在をどのような枠組みで置いておけばよいのか、分からなくなってしまっていた。

 返答に困っていると、難聴の少女は再び画面に文字を打ち込んで、その画面をこちらに見せてきた。


[篠田くん、よく緒方さんのこと話してますよ]

「えっ…」


 ようやく自分の言葉に反応を示してくれたのが嬉しかったのか、驚く緒方を見て、小坂はにっこりと笑っていた。

 どういうことだと同じように文字を打ち込んで、尋ねてみると、向こうは何かを思い出すように考えながら、返事を打ち込んでいた。


[篠田くん、あなたのことを独りぼっちだった自分に唯一手を差し伸べてくれた"大切な友達"だって言っていました。だから友達が困ってたら、助けてあげたいんだって]


 その文字を見て、緒方は改めて篠田のお人好しぶりを実感していた。

 困っているなんて話したわけでもなければ、自分でもそう思っていたわけでもなかった。

 喧嘩だって特別強いわけでもないのに、一人で半グレ集団のアジトに乗り込んでいき、一下っ端だった自分を抜けさせるようにトップに直接話したりもした。

 自分なんかの為にどうしてそこまで。そう思っていたが、彼女が記した言葉に緒方が知りたかったすべてが書かれているような気がして、なんだかすべてが腑に落ちてしまった。


「あいつは、やっぱり最初っからこっち側の人間じゃなかったんだな」


 ボソッと呟いた彼の一言も小坂には届かない。

 何を言ったのかと不思議そうにこちらを見ている彼女に、緒方は小さく首を振った。


[先、帰るわ]


 画面に書かれた文字を見せて、緒方はガードレールから腰を下ろし、残される小坂に背中を向けて歩き出した。

 立ち去る彼の横顔が小坂の視界に見えた時、その口角は僅かに上がっていたような気がした。

黒瀬リュウ ( 2021/11/20(土) 19:02 )