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夏休みが終わり、2学期を迎えたばかりの放課後。
野田高の正門前が少し賑やかになっていた。
というのも普段この近辺に立ち寄るはずのない日向坂高校の女子生徒が、一人正門前で立っていたからだ。
過ぎ行く生徒たちがざわつく中、そんな彼らの声は彼女には届いていない。
小坂は一人、篠田がやってくるのを校門の前で待っていた。
「あっ…」
だが先に校舎から出て来たのは、篠田ではなくその友人の緒方の姿だった。
「アンタ、なあ、おい」
肩を何度かたたかれて、ようやく小坂は強面の青年が自分に用があるということに気づいた。
だが彼女は声をかけられても耳が聞こえない為、彼の口の動きだけ見ても、相手が何を伝えようとしているのかが分からず困ってしまっていた。
するとその様子に気付いた緒方は、ズボンのポケットの中から、もぞもぞと携帯を取り出して見せると、メモ機能のアプリを立ち上げ、そこに自身が伝えたかったことを書き記した。
[篠田のこと、待ってるの?]
その文字を見た小坂はうんうんと何度も頷いた。
その反応を見た緒方は、それに続けるように、また文字を画面に打ち込み、彼女にその画面を見せた。
[あいつ、担任に呼び出されてたから、多分遅くなると思うよ]
その文字を見せると、今度は少し残念そうに眉を潜ませ、困ったような表情を浮かべていた。
[あいつに用があったの?]
緒方がそう尋ねると、彼女も同じようにアプリのメモ機能を開いて、文字を打ち込んでいた。
普段から打ち慣れてはいないのか、緒方よりフリック入力の速度は遅かったが、一生懸命打ち込んでから、彼女も画面を見せつけてきた。
[篠田君と一緒に図書館に行こうと思ってて]
そう言われて最近、篠田が勉学に打ち込んでいることを思い出した。その理由に関しては一度も尋ねたことがなかったが、恐らく今目の前にいる少女の影響が大きいことは何となく察しがついた。
彼のことを呼び出してあげようにも、夏休みの一件以来、緒方は篠田とどう接すればよいのか言葉が見つからないまま、話しかけることが出来ずにいたため、彼女の力になってあげることが出来ずにいた。