12
翌朝、どたどたと家の中の階段を駆け上がってくる音で、篠田は目を覚ました。
バンと大きな音を立てて開かれたドアには、顔の血相を変えた緒方がいた。
緒方は部屋を見渡すと、ベッドの上で寝ぼけ眼のまま横になってこちらを見ている彼に気づくと、彼に詰め寄り、胸ぐらを掴んできた。
「お前、何してくれてんだよ!」
「何って、何の話だよ…?」
「とぼけんな!昨日、足木さんに直接、俺をSLOWから抜かせるように話したらしいじゃねえか!」
起きたばっかりだったため、頭が全く回らなかったが、なんとか昨日のことを思い出すと、ああと情けない寝ぼけ声で返した。
緒方はそれに呆れるように手を離すと、その手を自身の頭に運び、髪の毛をぐしゃぐしゃと搔いていた。
「お前どうすんだよ。あの人を敵に回したら、ただじゃ済まないぞ…」
「別に敵になったわけでもないだろ。それにアイツは…」
昨日クラブで聞き耳を立てて聞いてしまったことを、思わず彼に口走ってしまいそうになったが、彼を悲しませたくないという思いから、余計なことは言うべきではないと篠田は口を封じた。
「とにかく、これから身の回りには気をつけろ」
ぐちゃぐちゃになった髪の毛のまま、緒方は声のトーンを一つ下げ、篠田に背を向けた。
彼の言葉の意味が分からなかった篠田は、素直に彼にどういう意味だと尋ねた。
「あの人は自分に歯向かった人間を徹底的に叩き潰そうとしてくる。きっとお前の周りの人にも危害が及ぶかもしれない」
「そんな…」
「お前が喧嘩を売ったのは、そんぐらいヤバい人だってことなんだよ。だから…、まあ、とにかく気をつけろよ…」
歯切れの悪い言葉を残して、部屋を立ち去ろうとする緒方の背中を、篠田はベッドから降りて追いかけて、彼を呼び止めた。
「緒方!」
呼び止められた彼はこちらを振り向くことなく、その場に立ち止まっていた。
そんな彼に篠田は背中越しに思いを伝えた。
「それでも俺はお前を抜けさせたこと、後悔してないから。お前は、俺にとってかけがえのない"友達"だから…」
篠田の言葉に彼は反応することなく、黙って立ち去って行った。