03
それから金村に付き合わされ、靴を見て回ったり、雑貨屋に立ち寄っては小洒落た物を買ったりと、とにかく彼女の買い物について回った。
彼女が何を考えているのか、全くわからなかったが、これで彼女の気が済むのならと、最後まで篠田は付いていくことに決めた。
夕暮れが近づき、展望台に上りたいと突然言い出した彼女は出来たばかりの大きいビルの中に入っていくと、ずんずんと先に進んでいき、展望台に入るための二人用のチケットを慣れた手つきで購入していた。
「ここ来たことあるの?」
そう尋ねると彼女は「ないよ」と笑顔で答えて、またずんずんと先を歩いていった。
展望台に上ると、少しずつあたりも暗くなってきており、夜景と呼ぶには十分なほどビル群の光が辺り一面に綺麗に広がっていた。
「わあ、すっごい綺麗。ここ一回来てみたかったんだ!」
夜景を前に金村のテンションはさらに上がり、自前のカメラをカバンから取り出して、景色を写真に収めていた。
「なあ」
「うん?なに?」
「何かあったのかよ」
喫茶店を出る前から篠田はずっと彼女の様子が何かおかしいことを気にかけていた。彼がそう尋ねると、彼女はカメラを構える手をゆっくりと下げ、展望台外の景色から篠田の方を振り向いて笑顔を見せた。
「ううん、なんでもないよ」
「そっか。なんか悩んでることとかあるんだったら、話ぐらいは聞くからさ」
「ふふっ、ありがとう。その時は頼りにさせてもらうね」
そういって再び景色の方に向いてカメラを構える彼女の手は、少し震えているようにも見えたが、彼女が何もないと言う以上、こちらから何かしてあげることは出来ないと篠田は感じた。