07
それからしばらくして、篠田はクラス担任の中池に進路指導で呼び出された。
進路希望調査を二週間以上も提出していなかったことが原因にある。
進路指導室に入ると、担任教師がテーブルの上にノートパソコンを広げ、何やら作業をしている様子だった。
ドアを開け、声をかけると、中池は呼び出しておきながら、彼が現れたことに少し驚いたような様子を見せてから、作業の手を止めた。
「おお、呼び出しにちゃんと応えるなんて珍しいな」
「呼び出しておいて、それは無いじゃないですか」
「すまんすまん、まあ座れよ」
中池の指示に従い、篠田は対面の席に腰を下ろした。
これまでも問題行動を起こしては、数々の教員に呼び出しを受けていたが、それに応じたことは一度も無かった。
呼び出されても言われる内容というものは分かり切っていたということと、教師と話しても自分にとって何も生産性を感じられなかったからだ。
だが今回は違う。彼が進路指導室へ足を運んだことには、明確な理由があった。
「なあ、先生。耳の病気を良くしてあげるにはどうしたらいいんすか」
唐突に問いかけられた生徒からの質問に、中池も最初は目を丸くさせて、どうした急にと笑っていたが、彼の真っすぐに見つめてくる眼差しに、少しずつ彼の言葉の真剣さを感じ取り、彼の正面に座って、同じように真剣に考えてくれた。
「そうだな、やはりそうなると医療系の道が考えられるだろうな。だが今の篠田の成績だと…」
「大学行くのも難しいですよね」
彼のことを思い、あえて言葉を濁したつもりだったが、本人から直接核心を突いたことを言われ、中池はうーんと考え込んでしまった。
これまで一切将来のことについて話してこなかった生徒が、真剣に将来について悩み、助けを求めている。
担任の教師として生半可な回答を彼に返すことは許されないと、中池は思っていた。
「まあ、今から死ぬ気になって頑張れば、可能性の幅も広くならないわけでもない」
「本当ですか」
「あくまでも可能性の話だ。だけどそこには篠田自身の努力が必要不可欠になってくる」
「勉強は、もちろん頑張ります」
「お前が本気なんだったら、俺もいろいろと考えてみるよ。でもまずは授業を真面目に聞くことだな」
核心突いた答えを得られることは出来なかったが、それでも僅かに光が見えたような気がして、篠田は少し心を躍らせていた。