06
カフェを出た二人は、篠田きょうだいに大きく手を振りながら、街の中へと消えていった。
二人に返すように麻里子は大きく手を振り返し、隣に立つ弟は深々と彼女たちに頭を下げている。
二人が持ってきた大きな紙袋には資料がみっちりと詰まっており、篠田はそれを抱えるように持っていた。
加藤たちと反対方向に歩き出した二人は、家まで送ってくれるという姉の車が止められてあるパーキングエリアまで向かった。
道中、姉の麻里子が資料を両手で抱えながら歩いている弟に話しかけてきた。
「にしても意外だったわ。あんたがそういうことに興味を持つなんて」
「興味っていうか、ちょっとでも知っておきたかったんだよ」
「その友達に感謝しなくちゃね。今度、お姉ちゃんに紹介しなさいよ」
どうしてそんな面倒なことをしないといけないのかと思ったが、今回は姉にしっかりお世話になった為、彼女に対してNOとは軽率に口に出せなかった。
だがそのおかげで彼女の力になることが出来る。そう思うと今日という日がとても有意義に感じることが出来た。
少し黙り込んでいると、姉がこちらの顔を覗き込むようにして、表情を伺ってきた。
「大丈夫?一人で突っ走っちゃってない?」
「どういう意味だよ」
言葉の真意を姉に尋ねると、姉は少し先を見ながら、少し顔をしかめながら話を続けた。
「あんた昔っから後先なんて何にも考えないで突っ走っちゃう所あるからなぁ。お父さんが死んだときもそうだったし」
「その話は関係ないでしょ。あの時は俺だってまだ小さかったし。それに姉ちゃんにだけはそんなこと言われたくないんだけど」
「まあまあ。友達の為に耳のこと勉強するのはいいことだけど、変に相手のリズムを崩しちゃだめだからね?向こうにだって、その人なりの生き方があるんだから」
「わかってるよ。だから少しでもその子の生活が楽になればって思って、俺にも何か出来ることはないか、それを考えてるんじゃんか」
弟の熱弁に麻里子は立ち止まって、小さくため息をついた。
「それが行き過ぎないようにしなさいよっ言ってんの。『相手の為、相手の為』って思ってても、それが"押しつけ"になったら、元も子もないんだからね」
「何が言いたいんだよ」
「誰だって"変わる"ことに恐怖を感じたりするのよ。"このままでもいい"って思う人だっているんだから。そこはちゃんと相手の気持ち、考えなさいよ」
そう言って麻里子は黙り込んでしまった弟の横を通り過ぎ、パーキングエリアへと向かっていった。