05
週末、篠田は姉の麻里子と共に世田谷にあるこじゃれたカフェに来ていた。
耳の障害について、もっと詳しく調べたいと思った彼は、元看護師長を務めていた姉の伝手を頼って、耳鼻科勤務経験のある看護師に色々と話を聞くことになり、このカフェで待ち合わせをすることになっていたのだ。
何故に女性というものはカフェで集まりたがるのか、彼には理解が出来なかったが、姉の奢りで出してもらったロールケーキがあまりに絶品だったため、待ち人が到着する前にぺろりと平らげてしまっていた。
しばらく待っていると、女性が二人、大きな紙袋を手に店の中に入ってきた。
彼女たちは麻里子の姿を見つけると、笑顔で手を振りながらこちらへ近づいてくる。
「師長〜、お久しぶりです〜!」
「ごめんね、せっかくの休みの日なのに、呼び出したりなんかして」
「いえいえ、師長の頼みなら、いつでも駆けつけますから」
仲睦まじそうに会話する三人を篠田は黙って見ていると、その視線に気づいた一人が尋ねてきた。
「君が噂の弟くん?」
「篠田葵です。今日はお忙しいところ、すみません」
「いいのいいの、師長の弟さんの頼みなら全然。私は加藤史帆。それと、この"雷門の風神雷神像"みたいな顔をしているのが、同期の齋藤京子」
そのような紹介されて、いったいどんな顔なのかと気になったが、それを言われた女性が顔をしかめたとき、なんとなく加藤と名乗った女性が言いたいことが分かったような気がした。
「ちょっと、変なこと言わないでくれる。私、そんなに顔怖くないから」
「京子、今まさに"それ"になってるわよ」
麻里子に言われ、斎藤という女性は慌てて自分の表情を取り繕った。
それを横目に笑いながら、加藤が篠田に尋ねてきた。
「それで耳のことについて聞きたいんだっけ」
「あっ、はい、友人に耳の障害で困ってる人がいまして。そいつの為に何か助けになることはないかと、皆さんにお伺いしたくて」
「二人は結構長く耳鼻科経験があるんだよね?」
「ええ、私は4年間経験があって、京子は今も耳鼻科勤務です」
心強い二人に篠田は気になることを全て尋ねようと、カバンの中から直前で慌てて買ったメモ帳を取り出した。