第五章『想い』
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 その夜、渋谷のクラブ『サンタルチア』のVIPルームでは、一人の男が複数人に殴る蹴るなどの袋叩き状態にあっていた。

 その男は、半グレ集団SOULのリーダーの足木から頼まれた仕事を友人とともに行ったのだが、その友人が裏切り、預かっていた物を盗んで逃げてしまい、その責任を負う形でSOULのメンバーたちから滅多打ちにされてしまっていた。


「足木さん、すいません…」


 うめき声と混じるような声で男は、ソファーに深々と腰を下ろして様子を見ていた足木の靴に縋り付いた。

 だが足木はその手を振り払うと、男の顔に一蹴り見舞わせた。


「汚い手で触んなよ。これ高かったんだぞ。あーあ、汚れちゃったよ、きったね」


 靴の側面に男の血の跡が付いたことに腹を立てた足木は、再び男の腹部に一発蹴りを入れた。

 痛みに悶え、声も出せない男はその場に蹲る。

 周りは誰も彼に手を差し伸べようともせず、ただ囲んで黙って傍観しているだけだった。


「お前が"大事な友達"だって言うから、俺は信用して二人に仕事を任せたんだよ。なのに裏切られて、挙句の果てに逃げ出すとかありえないでしょ」

「すみません、本当にすみません…」

「誤って許されるんだったら、盗まれたもん持って来いよ!」


 怒鳴り声を出し、今度は2発、3発と男の体に足木は蹴りを入れる。

 苦しみの果てに吐しゃ物と共に血を吐き出した男の姿に、周りを囲んでいたSLOWの男たちも、足木の狂気ぶりに少し恐怖を感じていた。


「俺らを裏切ったら、ただで済むと思うな。分かったか、吉田!」


 足木に髪を鷲掴みされ、怒鳴り散らされた吉田という男は既に意識を失っており、彼に声は届いていない様子だった。

 足木はその頭を地面にたたきつけると、周りに顎で指示を出し、吉田は男たちに引きずられ、VIPルームから連れ出された。

 足木は再びゆっくりソファーに腰を下ろし、テーブルに置かれてあるウォッカを一口飲むと、その横に座ってこれまでの光景を震えながら見ていた緒方の肩を強く掴んで引き寄せた。


「友達に恵まれないと、あんな可哀想な目にあっちゃうんだなぁ」

「そ、そうっすね・・・」

「お前も身の回りには気をつけろよ」


 そう言って彼の頭を撫でながら、至近距離でウォッカを一気に飲み干す足木を、緒方は子犬のように震えながら見つめていた。

黒瀬リュウ ( 2021/10/25(月) 17:00 )