03
ハンバーガーショップを出た4人は、渡邉が用件を思い出したと言い出し、丹生を引き連れて解散することになった。
丹生は名残惜しそうにしていたが、渡邉が強引に彼女の腕を引いて小坂から引き離し、篠田と小坂はそのまま原宿の街中に取り残された。
<じゃあ、俺らも行こうか>
<はい>
手話で意思疎通が出来るようになった二人は、お互いに手振りを返して、駅までの道を歩いて戻ることにした。
平日にも関わらず、原宿の竹下通りは相も変わらず人混みで溢れていたため、少し遠回りにはなるが、裏道から回って駅まで向かうことになった。
裏通りに入ると、メイン通りとは打って変わって、人の量が一気に少なくなり、原宿という街の本来の静かさのようなものを感じられる場所であった。
道中、小坂が彼の肩をポンポンとたたいて、彼を呼び止めた。
<手話、もう覚えたんですか?>
彼女の問いかけに篠田は少し微笑むと、照れくさそうに手振りを返した。
<ほんの少しだけ。思い出しながらになるから、たどたどしい感じだと思うけど>
<じゅうぶんに出来てますよ。すごくスムーズでビックリしました>
彼女のために一生懸命覚えたことを、本人に褒めてもらえることほど嬉しいものはなかった。
小坂に褒められて気をよくした篠田は、そのまま彼女にこう伝えた。
<俺さ、もっともっと耳のこと調べてみるよ>
彼のメッセージに疑問を抱いた彼女は、不思議そうにこちらを見て、首をかしげてきた。
<ちょっとでも君が普通の人と同じように過ごせる手段はないか。俺なりに調べてみる>
<そんな。私のためにそこまでしなくても・・・>
<別にいいんだ。君と俺は"友達"なんだから、友達のために出来ることをしてあげたいんだ>
彼のメッセージに彼女は少し悩むような表情を見せたが、彼の真っすぐな目を見て、ありがとうと小さく手話を返した。