02
制服姿の女子三人組は一緒に買い物を楽しみ、そんな彼女たちの荷物を持つ執事のように、篠田は彼女たちの後をただただ付いていくだけだった。
ショッピングが終わり、四人はハンバーガーショップへと足を運び、店内のテーブル席に腰を下ろした。
「はー、いっぱい買っちゃったー!」
「にぶちゃん買い過ぎ」
「だって原宿久々だったから、ついついテンション上がっちゃったんだもん!あっ、そうだ!」
丹生はスマホを取り出して、画面に何かを打ち込むとその画面を小坂に見せる。
恐らく先ほど買ったものを見せてほしいと丹生が頼んだのだろう。
小坂はそれにうんと頷いて反応すると、彼女が買ったショッピング袋の中から、ピンクのリップを取り出して見せた。
二人はそのリップを手の甲に付け、可愛いだの、ぷっくりして見えるだの、男には決して分からなさそうな会話を、スマホの画面越しにしていた。
篠田はそんな二人を優しく見守っていると、対面に座っていた渡邉がオレンジジュースをストローで啜りながら、こちらを見ていることに気付いた。
「すっごい見てくるじゃん。どうかしました?」
「菜緒ちゃんのこと、優しい目で見てるなぁって思って」
「えっ、そんなことないですけど」
「なんかちょっと"誤解"してたかも」
「"誤解"?」
篠田の問いかけに渡邉はまた一口オレンジジュースを飲んでから、その問いに答えた。
「"きんちゃん"が…、あっ、"金村"から聞いてた話と、なんかイメージが違ってたなあって思って」
「どんな話聞かされたんですか…」
「別に悪いことは何も言ってないですよ。ただまあ私の偏見もちょっとあったっていうのもあるんですけど、野田高の生徒さんって聞いて、菜緒ちゃんが変なことに巻き込まれないか、ちょっと心配してたんです。」
「どういうこと?」
渡邉はオレンジジュースをテーブルの上に置くと、篠田の目をまっすぐと見て、聞いていた噂話を口に出した。
「野田高の人が半グレの人たちと関わってるっていう噂を聞いたんです」
彼女の言葉に篠田は思わずえっと声を漏らした。
「私も噂で聞いただけだったので、疑い半分信用半分で聞いてたんです。でも今日のあなたの様子を見て、その疑いは晴れました」
「俺、なんかしたっけ」
「店員さんから質問されたときとか、言葉に詰まった私たちの代わりに、菜緒ちゃんに手話で通訳してたり、荷物だって私たちのも持ってくれてたけど、彼女の荷物多く持ってくれてたりとか。見た目はチャラついて遊んでそうなのに、意外と紳士なんだなあって思ったんです」
「最後すっごい偏見混じってた気がするんだけど、一応褒められてるんだよね?」
篠田の問いに渡邉は笑って答えた。
「もちろんですよ!正直、今日本当はあなたのことを観察したくて、菜緒ちゃんに付いてきたんです。あなたが信頼できる人なのか知りたくて」
「それで審査員さんの目には、俺はどんなふうに映りましたか」
皮肉を込めながらも少しドキドキしながら尋ねると、渡邉は笑顔のまま答えてくれた。
「あなたなら彼女を安心して任せられます」
「そりゃよかった」
「金村が言ってた通りだなって」
「えっ?」
確かにこれまでいつも小坂のそばにいる金村が、自分に対してどのような評価をしているのか。
これまで考えたこともなかったが、改めて言われると気になってしまうものだった。
「あなたのこと、べた褒めしてくるんですよ、あの子。それぐらいあなたのことを信じて、菜緒ちゃんのことを任せてるんでしょうけど。そんなに褒めちぎってばっかりだったら、ちょっと疑っちゃうのも自然じゃないですか。本当にそんな出来た人間がいるのかって」
「まあ、分からなくもないかな」
「今日会って、私も確証が得られました。菜緒ちゃんのこと、宜しくお願いしますね」
彼女はそうやってニッコリと微笑んだ。
篠田は何を宜しくなのか分からずにいたが、とりあえず手元のカフェラテを一口飲んで、小さく頷いた。