02
教材を受け取り、店を後にした二人は、駅までの道のりをともに歩くことにした。
センター街を通り抜けていく間、金村の頭には一つの疑念が頭を巡らせていた。
先日、友人たちが話していた"野田高校の生徒が半グレ集団と関わっている"という噂。
根も葉もない噂であることは重々分かっているつもりだが、今隣に並んで歩いている篠田も野田高校の制服に袖を通している人物に他ならなかったため、彼のことを完全に信用することに、少し抵抗を感じてしまっていた。
「どうした、なんかあったの」
ずっと隣で黙っていたからか、篠田の方から話しかけてきてくれた。
金村は疑念を押し殺して、彼の問いに答えた。
「今度、実力テストがあって。勉強頑張らなきゃなあって思ってただけ」
「えっ、4月からもうテストがあるの」
「一応、進学校ですから」
笑顔を作って見せたが、自分の笑顔がぎこちないものになっていなかったか、金村はそればっかり気になって仕方がなかった。
ぼんやりとしながら歩いていると、目の前から歩いてきていた人物に気付かずにどんと肩がぶつかってしまった。
ごめんなさいとすぐに謝って顔を上げると、サングラスをかけたスキンヘッドの男が赤いパーカーに手を突っ込んだまま、立ち尽くしていた。
「痛いな、お姉ちゃん。それは無いんじゃないの」
「ごめんなさい、前を見てなくて・・・」
「道路歩くときはちゃんと前を向いて歩こうよ、これ社会の常識よ?」
サングラスの薄いレンズの向こう側から、鋭い眼差しで睨みつけられているような感覚が痛いようにわかる。
表しようのない恐怖におびえていると、男が金村の肩をぐっと掴んできた。
どこかに連れていかれてしまうのかと身の毛もよだつような恐怖を感じ、目を閉じた瞬間、男の手は彼女の肩からあっさりと離れていった感覚がした。
目を開けると、さっきまで隣に並んで歩いていた篠田が彼女と男の間に割って立ち、男の手をひねり上げていた。
「篠田君・・・」
「まったく、君たちの学校は、チンピラの対処の仕方とか、そういう大事なことは教わらない訳?」
彼の言葉に激高したサングラスの男が殴りかかってきたが、篠田は男の体に手を添えると、するりとすり抜けるようにそれを後ろへと流した。
「なんだお前、横からしゃしゃり出てくんなよ」
「そんなカリカリすんなよ。相手女の子なのにみっともないでしょ」
「お前には関係ないだろ!」
男のその言葉に篠田は少し黙ったが、まっすぐに男の目を見つめて言った。
「あるよ。俺はこの子の"友達"。友達が手を出されそうになったら、それを守るのが友達の役目でしょ」
常に金村の前に立つ篠田の背中は、彼女にそれより先の光景をまったく見せないぐらい逞しく広くそびえ立っていた。