04
博物館を後にした三人は、上野駅までの道のりを一緒に歩いていた。
楽しそうに手話で会話をしている二人を少し後から歩きながら、篠田はふと思ったことを口に出した。
「金村さん」
「はい」
「俺も手話、覚えたいんだけど」
思いもしていなかった一言に金村はえっと驚いた。
「別にいいですけど、どうして?」
「まあ、覚えてた方が何かと楽でしょう。せっかく"友達"になったんだし」
彼のその一言に、金村は嬉しそうな顔を浮かべた。
「分かりました。じゃあ今度、私が勉強で使った教材、全部持ってきてあげます」
「いや、そんなにいっぱい持ってこられると、さすがに頭パンクするんだけど」
「大丈夫ですよ。全然少ないですし、それにほとんどは動画サイトを見て、私も覚えましたから」
彼女の言葉に、篠田は少し安堵した。
二人が何を話しているのか不思議に思っていた小坂に、金村は手話で先程の内容を伝えると、先程の彼女と同じように驚いた表情を浮かべて、篠田のほうを見てきた。
「な、なんだよ。俺が手話を覚えるっていうのが、そんなに驚くこと?」
「そっちじゃなくて、"友達"だって認めてくれたことを喜んでるんだと思いますよ」
金村の言葉に気恥ずかしくなった篠田は、照れを隠すように彼女たちから視線を逸らした。