第三章『住む世界』
04
 博物館を後にした三人は、上野駅までの道のりを一緒に歩いていた。

 楽しそうに手話で会話をしている二人を少し後から歩きながら、篠田はふと思ったことを口に出した。


「金村さん」

「はい」

「俺も手話、覚えたいんだけど」


 思いもしていなかった一言に金村はえっと驚いた。


「別にいいですけど、どうして?」

「まあ、覚えてた方が何かと楽でしょう。せっかく"友達"になったんだし」


 彼のその一言に、金村は嬉しそうな顔を浮かべた。


「分かりました。じゃあ今度、私が勉強で使った教材、全部持ってきてあげます」

「いや、そんなにいっぱい持ってこられると、さすがに頭パンクするんだけど」

「大丈夫ですよ。全然少ないですし、それにほとんどは動画サイトを見て、私も覚えましたから」


 彼女の言葉に、篠田は少し安堵した。

 二人が何を話しているのか不思議に思っていた小坂に、金村は手話で先程の内容を伝えると、先程の彼女と同じように驚いた表情を浮かべて、篠田のほうを見てきた。


「な、なんだよ。俺が手話を覚えるっていうのが、そんなに驚くこと?」

「そっちじゃなくて、"友達"だって認めてくれたことを喜んでるんだと思いますよ」


 金村の言葉に気恥ずかしくなった篠田は、照れを隠すように彼女たちから視線を逸らした。

■筆者メッセージ
ちょっと今回は少なめだったので、一気に2話分公開します。
って言っても次も短いので、量としては普段と変わらないですw

一種の場面転換だと思っていただければ、幸いです。
黒瀬リュウ ( 2021/10/12(火) 17:00 )