第二章『私のティラノサウルス』
01
 渋谷のスクランブル交差点の前で立ち尽くす二人はお互いの顔を見つめ合っていた。

 異なる制服の二人がなぜこのような事態になっているのかというと、助けた女の子が言葉を発することが出来ない女性で、それについてどう返したらいいのか、篠田自身答えを探していたため、彼女がスマホの画面に記した言葉に返せずにいた。

 彼が戸惑っていると、反応がないことに不安を感じたのか、彼女も少し不安そうな表情を浮かべ出した。


「あっ、ごめん。ちょっと驚いて。お前、喋れないの?」


 篠田がそう問いかけたが、女の子は困った表情を浮かべたまま、少し顔を横に傾けた。


「菜緒!」


 固まった二人の空気感をスパッと切り裂くように高い声が二人の間を通った。声の主の方向を篠田が見ると、彼女も続けて同じ方向を見た。

 その先には彼女と同じ制服を着たロングヘアーの女性が立っていた。


「菜緒に何か用ですか」


 駆け足でやってきた女性は篠田と彼女の間に割って入り、肩から下げている鞄の持ち手をぎゅっと握り締め、鋭く強い眼差しで彼を睨みつけてきた。


「いや、別に。この子が困ってたみたいだから、助けただけです。それじゃあ」


 これ以上関わったら余計なことに巻き込まれそうだと感じ、篠田が立ち去ろうとすると、トリケラトプスの女の子は、割り込んできた少女に何やらバタバタと身振り手振りをしていた。


「えっ、この人が・・・?」


 ロングヘアーの少女が同じように何やら手張りを返すと、トリケラトプスの少女は小さく頷いた。


「あの!」


 すでに駅に向かって歩き出していた篠田の後を二人は追いかけ、彼のリュックを掴んだ。

 突然背後から捕まれ、思わず篠田も驚き、立ち止まる。


「な、なんですか?」

「菜緒を、私の友達を守ってくれたみたいで、ありがとうございました」

「あっ、いや。別に俺は何も」

「この子、小さい頃から耳が聞こえなくて。私がいつもは一緒にいるんですが、ちょっとコンビニに行ってた間に絡まれちゃったみたいで」


 ロングヘアーの少女の説明でようやく全ての合点がいった。彼女が声を出さずにいたのは、耳が聞こえないため、言葉を発するのが難しかったからだったのだ。

 先程彼女たちがしていた身振り手振りは、恐らく手話のことだったのだろう。


「あの、それで、この子がどうしてもお礼をしたいと言ってて」

「えっ、いや、そんな気遣わなくていいですよ」

「お願いします!もしよかったら、ちょっとお時間いただけませんか?」


 ロングヘアーの女の子の勢いに押され、篠田はやむなく首を縦に振らざるを得なかった。

■筆者メッセージ
しばらくは毎日17時に1話分投稿できたらと思うので
お楽しみに。
黒瀬リュウ ( 2021/10/05(火) 17:00 )