01
8月も中盤に入り、自称芸術家たちは大きな壁にぶち当たっていた。
アパートの部屋には栄介と章一の二人のみ。竜三はNEW SHIPで"執筆活動"という名のティータイムに。由依は公園で以前一度だけ会っただけで惚れた男の肖像画を描いていた。
児童漫画を描いている栄介の後ろで、祭りの日に完成したという詩に合わせて作曲活動をしていた章一は、ため息を一つ吐いて、ついにギターを置いた。
「はあ、才能ねえ・・・」
「もう諦めたんですか?」
栄介は漫画を描きながら、背後で煙草を吸ってぼやいている章一に尋ねた。
「ちょっとパチンコに行って、気分を変えてきます」
「まさか、我々の夕食代でパチンコする気じゃないでしょうね」
図星を突かれた章一は背中を向け続けている栄介に、少し怒り気味で反論した。
「そうですよ、たった四百円じゃカレーライスも買えませんからね!まず百円でインスタントカレーのルーと福神漬けを取って、調子が良かったら明日の醤油味噌砂糖なんかも買って、後の三百円でバラ肉と野菜を買って帰ります!これなら文句ありませんよね?」
「そうですね、苦労かけます」
意外にも冷静に答えた栄介に、章一は思わず我に返って、少し気まずい思いになった。
「べ、別に。趣味と実益ですから・・・」
ため息をついてストローハットを被った彼はそそくさと部屋を後にした。
祭りの日から章一の気分が悪いことは、一緒に暮らす身として栄介自身察しがついていた。恐らくは杏奈を振ってしまったことを後悔しているのであろう。
書いていた原稿も一段落し、窓辺に立って大きく伸びをしていると、ドアを叩く音がした。開けてみると隣に住む美音が心配そうな顔をしてこちらを見つめてきた。
「大丈夫ですか?なんか、怒鳴り声がしたんですけど・・・」
「ああ、ごめんね。なんでもないよ」
「章一さん、何かあったんですか?」
「ちょっとね。夏が、そうさせてるんだよ」
彼の言葉に美音は疑問符を浮かべながら首を傾げた。