第五章:理想と現実
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「仕方ないわね、はいどうぞ」

 自炊をするにしても調味料がなければ、味もしない。味噌や塩を大家のフネに頼み込み、少しばかり分けてもらうことになった。

「すいません、助かります」
「これっきりにしてよ?」
「はい、ありがとうございます!」

 小皿二枚に盛り付けてもらった味噌と塩を手に、アパートに戻ると、部屋の前で少し大きなボウルを手に立っている美音を見かけた。

「美音ちゃん、どうしたの?」
「あっ―、そのポテトサラダを少し作りすぎちゃって―。よかったら皆さんでどうぞ」
「ありがとう、いただくね」

 ボウルの中を覗き込んでみると、明らかに作りすぎで隣近所におすそ分けする量とは思えないほど、かなり多めのマッシュポテトが中に入っていたが、あえてその理由を問うことはせず、彼女の優しさにありがたく受け取らせてもらうことにした栄介であった。

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 裕二から譲ってもらった米をぼろぼろの鍋で炊き、蓋がないため、まな板を上に載せると、隙間から蒸気が漏れていた。
 その蒸気とともに漏れてきた匂いを嗅ぎつけ、ポテトサラダを少しつまみ食いしていた由依は手で煽いでその匂いを嗅いでいた。

「はぁ、やっぱりご飯を炊く匂いは最高だなぁ―」
「ふふっ、もうちょっとで出来るから、つまみ食いしないで下さいよ?」

 味噌汁を作っている章一はそんな彼女を横目に、フネから頂いた味噌で味付けをしているところだった。

「あっ、そういえば章ちゃん。杏奈ちゃんが七夕祭りの日に六時でNEW SHIPで待ってるって」
「えっ・・・」
「“天の川 愛向き立ちて 我が恋し”か―」
「杏奈ちゃん、意地らしいところあるんだね」

 杏奈からの伝言に章一は戸惑いを感じながら、作った味噌汁を味見した。その味は少しまだ薄味であった。

■筆者メッセージ
紅白、とんでもないことになってしまいましたね。
最後の最後まで総選挙をしなくてはいけないとは、なんだか残酷のような気もします。
どんな結果になるのか、正直不安ではありますが
私は推しメンを応援していきたいと思います。

作品に関するご意見やご感想、その他等々のコメント、お待ちしております。
黒瀬リュウ ( 2016/11/29(火) 15:50 )