07
風呂桶と手拭いを手に、外へと歩き出した彼らは、先を歩く栄介に抗議を申し立てた。
「村岡君、少し稼いできたからというて、ちょいと威張りすぎでんな」
「同感。金を稼ぐことは知らなくても『自由』についてなら、私たちだって知ってます」
「よし、じゃあ聞かせてくれないか?『自由』とは何か」
あっさり聞き返された由依は、言葉に詰まった。
自由とは何か。そういきなり尋ねられた時、何と答えたらよいのか、彼女の頭には明確な答えが浮かんでいなかった。
頭を一生懸命回した彼女は、彼の質問になんとか答えた。
「自由とは、好きなことを好きなようにやっていくこと。栄介さんは漫画を、竜三さんは小説を。章ちゃんは歌謡曲を。私は油絵を。それが自由だと思うけど?」
「同感。したがって俺らは定職を持たへんのや。金のために身を売ったりなんか断固せえへん」
由依の言葉に竜三が続いて口を開いた。彼らの横を歩く章一もうんうんと頷くばかり。栄介はそんな彼らの姿を見て呆れ返っていた。
「でもさ、君たちは身を売って働きたくないっていうけど、俺はそれをしてきたんだぜ?」
「それはちゃうで。君は漫画家やさかい、漫画を描いてきたんや。それは君が主体的に決断し、選んだんやで?」
「違う。君は何もわかっちゃいない」
あっさり否定をされた竜三は、無精ひげが生えたその頬を子供のようにふくらましてふてくされた。
「えっと、なんだっけ。結局はその、生活の立て直し・・・?」
「うん、そうだよ」
「それって具体的に何をするんですか・・・?」
栄介が章一の問いに答えようとしたとき、四人の先を歩く二人の背中を見つけた竜三は声を大きくして、彼らを呼び止めた。
「おお、裕二君!」
「あっ、おばんです」
振り返った裕二の隣にいたのは、栄介たちの隣の部屋に住む美音だった。
「なになに、二人して銭湯デート?」
「ち、違います・・・!たまたまばったり会ったので・・・」
「ってことは美音ちゃんもお風呂なんだ。よかったぁ、わたし一人ぼっちでお風呂に入るところだったから、誰かいてくれるとホッとする」
「なんや、騒がしくなってきたなぁ」
そうして二人を加えた六人は共に近所の銭湯へと向かっていった。