第三章:夏の始まり
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「いやぁ、上手くいってよかったなぁ」
「全然よくないわよ」

 キヌの見舞いを終えた二人は以前、由依と竜三と三人で栄介の帰りを待った土手で、杏奈が用意してくれたおにぎりを食べていた。

「すごい具合悪そうだったんだから・・・」
「だろうな・・・。完全に手遅れで、手術もできない状態らしい」

 栄介から教えてもらってはいたが、章一もずっと気が気でなかったのだ。
 杏奈は小さくため息をつくと、おにぎりを一口頬張った。

「私苦手なのよね、病院とか。なんか、暗いっていうか。お母さんが脳卒中で倒れた時だって、病院なんて行ってないんだから」
「ごめん・・・。いや、偽医者なんてやってなかったら、自分で見舞ったんだけどさ」
「その通りよ。なんで私に押し付けるかなぁ」

 彼女の言葉に「ごめん」と章一は詫びることしかできなかった。
 てっきり今日は楽しいデートになるはずだった。そう信じていたのに、まさか見舞い代行をさせられるとは杏奈も思っていなかった。彼が持ってきたお菓子の袋詰めも花束も、全部キヌへの見舞いの品だった。
 浮かれていた自分が馬鹿みたいと彼女は一つため息をついた。
 帰りのバスでは二人は少し離れた席に座り、一言もしゃべることなく、その日は解散となってしまった。

■筆者メッセージ
章一君の初デートは失敗に終わってしまいました…。

そんなことよりも、いよいよぱるさんの卒業フラグが大きく立ち始めています。
覚悟はしていたものの、やっぱりさみしさが強いです。
いろいろ気持ちを整理したいと思います。

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黒瀬リュウ ( 2016/09/16(金) 23:45 )