06
三人はアパートから少し離れたところにある質屋に来ていた。栄介が言っていた「扇風機を飯に変える」というのは、それを質入れしてお金を手に入れることであった。
老婆とその息子が営んでいるこの質屋で、あまりいい思いをしたことがない。だが今回は栄介には自信があった。なんといってもあの扇風機である。中古ではあるが、これから夏が近づいてくるのだ。欲しいという人間はたくさんいるだろうし、安くても千円は手に入るだろうと自負していた。
そうして手渡された質札には九百八十円と書かれてあった。
質屋を後にし、三人は重い足取りでアパートへと戻っていた。重たい空気を察した栄介はゆっくりとその口を開いた。
「申し訳なかったね、せっかく頼ってもらったのに。僕に甲斐性がないばかりに」
「なんや、棘あるな・・・」
「そうですよ。別に私たちは栄介さんのお母さんを助けたことを恩に着せてるわけじゃ・・・」
誰もそんなこと聞いてはいなかったのだが、由依の口からそれが出たということは二人ともそう思っているのだろう。だが、そんなことよりも栄介にはもっと気になることがあった。アパートの前にギターケースを携えた見覚えのある後姿があったのだ。
ストローハットをかぶっていたが、あの顔を見忘れることはない。二ヶ月前まで同じアパートに住んでいた井上章一であった。
「なんだいなんだい。章一君!」
栄介の声に振り向いた彼は、恥ずかしそうな笑みを浮かべながらこちらを出迎えた。
「お久しぶりです」
「どないしたんや、北海道に帰ったはずや・・・」
「いやぁ、田舎つまらなくて・・・。また出てきちゃいました」
「そっか、出てきちゃったんだ」
「まあ、こんなところで立ち話もなんや。中に上がり!」
「あっ、はい。お邪魔します!」
そう言って竜三は章一の背中を押し、アパートへと上がっていった。由依もその後を追い、まるで自分の家のように部屋へと戻っていく。
栄介は彼らの背中を見ながら、元の部屋主は誰だったか思い出そうとしていた。